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2024.04.01
アジア経済
アジア経済見通し
四半期見通し『アジア・新興国~中国経済は引き続き勢いを欠き、アジアは公的需要への依存を強める~』(2024年4月号)
西濵 徹
「5%前後」という目標実現のハードルは高い
中国では、昨年末以降に1兆元規模の新規国債発行によるインフラ投資の拡充のほか、地方政府による債券発行枠の前倒し実施などによる内需喚起の取り組みが進められている。しかし、マクロ的な観点でのインパクトは限られるとともに、インフラ投資による限界的な乗数効果が低下していることを勘案すれば、短期的な景気下支えを上回る効果を期待することは難しい。他方、当局は株価下支えに向けて『国家隊』を総動員する形でPKO(株価維持政策)に動くなど、金融市場の『視点逸らし』にも似た動きをみせている。ただし、近年の中国経済が不動産投資に過度に依存してきた構造に加え、不動産市況の動向は地方政府が抱える過剰債務の動向に影響を与えるほか、若年層を中心とする雇用環境の厳しさを勘案すれば、当局が打ち出している対策は『対症療法』の域を出ないと捉えられる。人口減少による潜在成長率の低下も進むと見込まれるなか、マクロ的にみた中国経済は減速傾向を強める展開が続くことは避けられないと予想される。
3月に開催された全人代では今年の経済成長率目標を「5%前後」と昨年から据え置く姿勢をみせたが、デフレ懸念がくすぶるなかでそのハードルは決して低くないのが実情であろう。他方、供給サイドを中心とする過度な景気下支えに動けば『デフレの輸出』とも呼べる動きが世界経済の混乱を招く可能性にも要注意である。
アジアは公的需要への依存度を高める展開続く
中国以外のアジア新興国では、中国経済への依存度が相対的に高いASEANやNIEs諸国にとっては中国景気の行方の影響を受けやすい展開が続くことは避けられない。一方、米中摩擦やデリスキングを目的とするサプライチェーン見直しの動きは対内直接投資の受け入れを促しており、結果的に企業部門による設備投資の動きを下支えすると期待される。また、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げが家計消費を下支えすると見込まれる一方、金融政策については『米FRB如何』の展開が続くことが避けられず、中銀による利上げの累積効果が足かせとなる状況が続く可能性はくすぶる。その意味では、国際金融市場の環境に揺さぶられやすい展開が続くと見込まれる。
なお、今年のアジアは選挙が目白押しの『選挙イヤー』となるなか、各国政府は食料インフレへの対応を目的にバラ撒き政策に傾注する動きをみせており、一時的に家計消費など内需を押し上げることは期待される一方、その後は反動による下押し圧力に晒されることが考えられる。こうした動きはコロナ禍で悪化した財政状況を一段と悪化させる上、世界的な金利高の環境が長期化するなかで幅広い経済活動の足かせとなることが懸念される。また、選挙を意識したインフラ関連を中心とした公共投資の拡充が図られる動きもみられることを勘案すれば、当面のアジア新興国の景気は民間需要以上に公的需要に下支えされる展開が続くと見込まれる。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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