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スペイン首相の辞任騒動、その結末は?

~政権基盤の強化につながらず、与野党間の攻防は一層激化~

田中 理

要旨
  • 先週、唐突に辞任の可能性を示唆したスペインのサンチェス首相は、5日間の公務中断の末、首相を続投する意向を固めた。辞任示唆で政権基盤を強化しようと試みたとみられるが、野党勢力に新たな攻撃材料を与え、閣外協力するカタルーニャの地域政党との関係を不安定化させる恐れがある。5・6月に重要な選挙を控え、与野党間の攻防は一層激化することが予想される。

妻に対する不正疑惑の予備的調査の開始を受け、4月24日に辞任の可能性を示唆したスペインのサンチェス首相は29日の国民向けの演説で、首相を続投する意向を明らかにした。極右勢力に近いグループの告発に基づく首相夫人に対する汚職と便宜供与の疑惑の調査は、証拠不十分で却下される可能性があるが、告発したグループは新たな証拠を提出する準備があるとしている。首相は週末にかけて寄せられた続投を求める声に勇気づけられたと述べ、今後も根拠のない攻撃に対する戦いを続け、より力強く首相としての職務を全うする決意を表明した。

首相は24日の声明で、「自身や家族が政敵による誹謗中傷の標的となっている」、「司法制度を悪用した政敵による攻撃」などと形容した。5日間の公務中断の末の首相続投に対しては、与党内から安堵の声が上がる一方、野党勢力からは「政治の私物化」、「茶番劇」、「反対意見を受け入れない」、「被害者面したナルシスト」などの厳しい言葉も聞かれる。また、サンチェス政権を閣外協力するカタルーニャの地域政党は、5月12日のカタルーニャ議会選挙に介入する無責任で軽薄な行為として首相を非難している。同議会選挙では、サンチェス首相が率いる社会労働党(PSOE)が分離独立派の地域政党を抑えて、勝利する可能性がある。

サンチェス首相が率いる非多数派政権の議会基盤は脆弱で、昨年11月の政権発足後も政策停滞が続いている。26日付けレポート「スペイン首相が辞意示唆、週明けまでに決断」で指摘した通り、首相は一連の辞任示唆を通じて野党勢力を糾弾するとともに、政権を支える政党間の亀裂が広がる恐れがある5月のカタルーニャ議会選挙や6月の欧州議会選挙を前に、政権基盤を強化しようと試みた可能性がある。だが、突然の辞任示唆と具体的な行動を伴わない続投の決断は、首相のスタンドプレイと受け止められかねない。野党勢力に新たな攻撃材料を与え、閣外協力するカタルーニャの地域政党との関係を不安定化させる恐れがある。今回の首相の辞任騒動は、国民の間にどう映ったのだろうか。政権基盤の強化につながるか、それとも更なる弱体化をもたらすか。5月12日のカタルーニャ議会選挙や6月9日の欧州議会選挙は、今後のスペイン政局を占う試金石となろう。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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