暮らしの視点(31):60代以降の病気・けがからの気づき

~「加齢」に向き合い、柔軟に折り合っていく契機に~

北村 安樹子

目次

1.シニア世代が自身を高齢者だと思う割合

9月半ばに公表された高齢者人口に関する総務省のとりまとめによると、65歳以上の高齢者人口が日本の総人口に占める割合は29.1%となった(注1)。80歳以上の高齢者の割合は10%を超えるに至っている。

実年齢の面では高齢化が進むなか、シニア世代が自身を「高齢者」だと感じるかどうか多様な認識が広がっている。内閣府が60歳以上の男女を対象に行った調査によると、従来の「前期高齢者」に該当する65~74歳の男女で自身を高齢者だと感じている人の割合は、60代後半で3割程度、70代前半では半数にとどまっている(図表1)。70代前半までは、自身を高齢者だと感じていない人の方が多いことがわかる。

図表1 自分を高齢者だと感じている人の割合(全体、年齢別、就労状況別、健康状態別)
図表1 自分を高齢者だと感じている人の割合(全体、年齢別、就労状況別、健康状態別)

2.60代以降のライフコースの多様化と「高齢者」への意識

自分を高齢者だと感じるかどうかは、実際の年齢に加え、就労状況や健康状態も関連していると考えられる。定年延長や継続雇用の広がりなどを背景に、60代前半の就業率は7割を超え、60代後半でも半数を上回っている(図表2)。60代後半には、公的年金を受給し始める人が多い一方で、就労により老後の生活資金を補おうとする人が増えている。仕事の内容や働き方にもよるが、60歳以降も仕事をしていることが「自分は高齢者ではない」との思いにつながっている人もいるだろう。

また、1人暮らしも含め高齢者のみで暮らす人が多いことも、自身が高齢者であると感じるかどうかに関連するのではないだろうか。自立して生活することへの自負や自信が、「高齢者ではない」との意識に結びついている場合もあるだろう。

図表2 60歳以上の就業率の推移(年齢階級別)
図表2 60歳以上の就業率の推移(年齢階級別)

3.60代以降の病気・けが~ライフスタイル見直しの契機に~

冒頭でみたように、実際の年齢が65歳以上の人にも、自身を「高齢者」であるとは感じていない人がいる。

ただ、誰でも病気やけがを経験することはある。それが加齢の現実に向き合い、ライフスタイルの見直しを迫る出来事になることが多い。たとえば、手術・入院や、通院時に家族が付き添う事態を経験すれば、自分だけで対処できず家族に負担をかけることに、感謝の気持ちの一方で、不自由さや情けなさなど複雑な思いを抱く人もいる。自身を高齢者と思うかどうかにかかわらず、現実に向き合い、働き方や住まい方など、それまでのライフスタイルを見直して、生活を立て直すことが求められるだろう。

一方、家族が医師・看護師に直接接したり、病院の環境を知ることで、家族間の情報共有や相互理解がスムーズに進む場合もある。家族がいなかったり、家族以外に支援を頼りたい場合は、誰にどのような形で支援を頼むのか考える機会にもなるだろう。

病気やけがの経験を通じて、自身の生活が他者の支援に支えられていたことにあらためて気づいたり、他者の支援を得つつも自立して暮らす生き方を知る人もいる。そして、「高齢者」や「高齢期」の捉え方の違いを認識し、自身の「加齢」の現実に向き合って、ライフスタイルの見直しを図るきっかけにできるのではないだろうか。

【注釈】

1) 総務省「統計トピックスNo.138統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」2023年9月17日。

【参考文献】

1) 第一生命経済研究所「「幸せ」視点のライフデザイン」東洋経済新報社、2021年10月。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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