よく分かる!経済のツボ『「不景気」と「低成長」なにが違う?』

大柴 千智

目次

「不景気」と「低成長」?

「失われた30年」という言葉に代表されるように、日本はバブル崩壊以降、各国と比較して低い経済成長率、すなわち「低成長」に苦しんでいます(資料1)。他方で、「日本は不景気だ」という言葉もよく聞かれます。似たニュアンスに聞こえますが、実は両者には違いがあります。

図表1
図表1

「不景気」は短期的なサイクル

「不景気」は、短期的な景気循環論の中で説明されます。一般に、景気は良くなったり悪くなったり、波のように上下を繰り返します。これを景気サイクルと呼びます(資料2)。消費者心理の悪化で需要が減ったり、企業の業績悪化で投資手控え等が起こったりして、製品やサービスが売れなくなる状況を「不景気」といいます。需要が減少すれば企業は生産を減らすでしょうから、経済成長率は下がります。そのため、「不景気」であれば、減税や給付金といった財政政策や、政策金利引き下げ等の金融緩和政策によって需要を喚起させることが効果的といえるでしょう。

図表2
図表2

「低成長」は長期的なトレンド

一方、「低成長」は、長期的な経済成長論の考え方が有用です。上述の景気サイクルの影響を除けば、経済成長は「労働量」と「資本量」、そしてそれらの「質(※1)」の3つに分解することができます(資料3)。働き手を増やすほど、あるいは機械や設備などの資本を増やすほど、生産量が増えるという考え方です。ただし、質の改善がない中では、いずれ労働や資本から追加的に得られる生産量を増やすことができなくなります。労働者1人にパソコン台数を必要以上に増やしても生産量が増えないことをイメージすると分かりやすいかもしれません。この状態が、「低成長」と呼ばれる状況を招きます。この場合は、「不景気」と違って財政政策や金融政策では効果が乏しいと考えられます。少子高齢化社会で人口減少が進む中、重要なのは、技術革新によって労働や資本の「質」の改善することです。そのため、企業や研究機関での研究開発費支援や、労働者のスキル向上のための教育推進が不可欠といえるでしょう。

図表3
図表3

(※1)「全要素生産性(TFP)」と呼ばれ、一般的に労働や資本の効率性や、技術水準として捉えられます。

大柴 千智


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

大柴 千智

おおしば ちさと

経済調査部 副主任エコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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