オーストラリア中銀、2025年半ばまでの金利据え置きを想定の模様

~サービス物価如何では再利上げを排除せず、豪ドルの対日本円相場は堅調な推移が続く可能性~

西濵 徹

要旨
  • オーストラリアでは2年半近くに亘ってインフレが中銀目標を上回る推移が続いている。インフレ昂進や不動産市況のバブル化懸念を受けて中銀は累計425bpの利上げを実施したが、足下のインフレはサービス物価を中心に粘着度の高さが確認されている。さらに、金利高が長期化しているにも拘らず、大都市部を中心に不動産価格は上昇が続くなどインフレ圧力に繋がる材料は山積している。こうしたなか、中銀は7日の定例会合で政策金利を4会合連続で4.35%に据え置く決定を行った。同行は3月の前回会合でタカ派姿勢を幾分後退させる考えをみせたが、サービス物価の動向如何で再利上げに含みを持たせた上で、政策金利を来年半ばまで現行水準で据え置く見通しを示すなど「タカ派」姿勢を示した。こうした状況を勘案すれば、豪ドル相場は対米ドルでは引き続き米FRBの政策運営見通しに揺さぶられる展開が続く一方、日本円に対しては為替介入の影響を受けているものの、当面は底堅い展開が続く可能性が高いと見込まれる。

オーストラリアでは2021年後半以降、インフレ率が中銀(準備銀行)の定めるインフレ目標(2~3%)を上回る推移が続いている。ここ数年の商品高や国際金融市場における米ドル高を受けた通貨豪ドル安による輸入インフレに加え、コロナ禍一巡による経済活動の正常化の動きも重なりインフレは大きく上振れして一時は33年ぶりの高水準となった。また、コロナ禍対応を目的に中銀は異例の金融緩和に舵を切る一方、経済活動の正常化による雇用回復やコロナ禍を経た生活様式の変化、国境再開を受けた外国人来訪者数の回復も重なり不動産市況は大きく上振れしてバブルが懸念される事態となった。こうした事態を受け、中銀は一昨年5月以降に物価と為替の安定化、不動産市況の鎮静化を目的に累計425bpもの利上げを断続的に行うとともに、昨年末以降は金利を据え置く姿勢を維持してきた。なお、上述のようにインフレは一時33年ぶりの高水準となるも、一昨年末以降の商品高や米ドル高の一巡を受けてその後は頭打ちに転じているものの、依然としてインフレ目標の上限を上回る推移が続くなど、金利高と物価高が共存して内需の足かせとなる懸念が高まっている。他方、コロナ禍を経て最大の輸出相手である中国との関係悪化の動きは中国経済を巡る不透明感の高まりと重なり外需の重石となってきたものの、足下では関係改善の動きがみられるなど外需を下支えする可能性は高まっている。このように景気には好悪双方の材料が混在する動きがみられるものの、足下の雇用環境は大都市部を中心に堅調な推移をみせるとともに、そうした動きを反映してインフレの粘着度の高さが確認されるなどインフレの高止まりを示唆する動きが確認されている(注1)。さらに、高金利が長期化しているにも拘らず大都市部を中心に不動産価格は上昇の動きが続いており、資産効果が家計消費を下支えするとともに、資産の約3分の2を住宅ローンが占める銀行セクターにとっても貸出態度の改善を通じて幅広く経済活動を下支えすることが期待される状況にある。このようにインフレ圧力に繋がる材料が山積するなか、中銀は7日に開催した定例会合において政策金利(オフィシャル・キャッシュ・レート)を4会合連続で4.35%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、物価動向について「依然として高止まりが続き、想定よりも緩やかに低下している」、景気動向についても「見通しは依然として極めて不確実」との見方を示している。その上で、先行きの政策運営については「インフレを目標域に戻すことが最優先」とするこれまでの考えを改めて強調した上で、インフレ見通しについて「緩和しつつあるがその動きは想定より緩やかで依然として高水準」として「インフレが持続的に目標域に収束するには時間を要する上、上振れリスクを警戒している」、「インフレを合理的期間内に目標域に戻す最も確実な金利の道筋は依然不透明であり、如何なる判断も排除しないが、データとリスク次第である」との考えを示しつつ「インフレを目標域に戻す断固とした決意は変わらず、この実現に向けて必要なことを行う」との考えを改めて示した。また、会合後に記者会見に臨んだ同行のブロック総裁は「データは不安定な動きをみせており、より長期的視点に立ってインフレを警戒する必要がある」との認識を示した上で、「金利はインフレを目標域に戻す丁度良い水準にある」との見方を示している。なお、同行は3月の前回会合において『タカ派』姿勢を幾分後退させる判断を示したものの(注2)、ブロック氏は「再利上げの必要はないと考える」としつつ「理事会では利上げの選択肢についても討議したが、必要であれば実施する」と述べるなど、再利上げの可能性を排除しない考えを示している。ただし、「経済がさらなる高い金利を我慢する必要がないことを望む」と述べるなど、本心としては利上げを望まない一方で「サービス物価の動向が深刻化すれば行動せざるを得ない」と述べるなど、サービス物価の動向を注視する考えを示した。その上で、「理事会はインフレリスクに警戒感を示している」としつつ、「政策リスクは概ね均衡しているが警戒が必要」として様子見姿勢を維持する考えを示している。会合後に公表した資料ではインフレが目標域に収束するのは2025年後半という従来見通しを維持する一方、政策金利は2025年半ばまで現行水準で据え置く見通しを示すなど、2月時点(今年半ば)から約9ヶ月先延ばしされるなど、同行が長期に亘って『タカ派』姿勢を維持する可能性を示したものと捉えられる。こうした状況を勘案すれば、豪ドルの対米ドル相場については引き続き米FRB(連邦準備制度理事会)による政策運営の動向に左右される展開をみせることは避けられない一方、日本円に対してはこのところの財務省や日本銀行による為替介入の動きに揺さぶられているものの、比較的底堅い展開をみせる可能性は高いと予想される。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 コアロジック住宅価格指数(前月比)の推移
図 2 コアロジック住宅価格指数(前月比)の推移

図 3 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
図 3 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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