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Q.大統領選挙にはなぜ膨大な資金が必要なのか?
A. 2020年大統領選挙における各陣営の資金支出額は合計57億ドルと、2016年選挙の24億ドルから2倍以上も拡大した(注1)。こうした膨大な資金は主にテレビやネット上の広告に支出されており、2020年選挙における各選挙陣営の資金使途を見るとバイデン氏の79.3%、トランプ氏の68.4%がそれぞれメディア費用に充てられた。メディア広告は自身の政策アジェンダやこれまでの実績をアピールするのみならず、対立候補へのネガティブキャンペーンとしての役割を果たす。メディア広告以外の支出としてはスタッフの人件費、全米各地で集会を開催するための運営費や交通費、選挙戦略立案のための調査費用などが挙げられる。また、トランプ氏は2024年大統領選に向けた政治献金の一部を自身の刑事裁判費用に割り当てている。
Q.選挙資金は誰が拠出しているのか?
A. 大統領候補(選挙陣営)へ直接的に寄付を行うのは主に個人であり、企業や業界団体による寄付は原則禁止されている。2024年選挙における個人献金の上限は選挙1回あたり3,300ドルであり(党内指名を目指す予備選と11月の本選はそれぞれ1回の選挙とカウント)、一人当たり200ドル以下の少額寄付が直接的な寄付額の3~5割を占める傾向にある。
一方、2010年の最高裁判決で認められた「スーパーPAC(政治活動委員会)」は、特定候補から独立した政治活動という建て付けの下、個人や企業、労働組合などから無制限に資金を集めることができる。スーパーPACは候補者への資金提供が禁止されているものの、特定の候補者を支援、或いは対立候補を批判するような広告を大量に打つため、選挙戦において重要な役割を担っている。
2020年大統領選におけるバイデン氏の選挙資金額16.2億ドルの内訳を見ると、主に個人献金による選挙陣営の財源が10.4億ドル、同氏を支持するスーパーPAC等の間接的な財源が5.8億ドルと、約3分の1の選挙資金は企業や大富豪を中心とした大口献金によって構成されていたといえる(トランプ氏は選挙資金額10.9億ドルのうち、個人献金による選挙陣営の財源が7.7億ドル、スーパーPAC等によるものが3.1億ドル)。
Q.豊富な資金力は選挙結果を左右するのか?
A. 大統領選に限らず、資金力が選挙結果に及ぼす影響は必ずしも明確ではない。例えば2022年の議会選挙において、勝利した候補の8~9割は対立候補よりも資金力があり(注2)、「勝った候補はお金を持っていた」傾向にある。しかし、そもそも支持基盤の強い候補は集金力を有していると考えられるため、資金力の多寡がどれだけ選挙結果を左右するのかは不透明である。
大統領選を巡っても、直近5回のうち4回は資金力のある候補が勝利しており(図表1)、寄付金額は選挙結果に対して一定の予測力があるといえる。とはいえ、2016年には民主党・クリントンが約1.8倍の選挙資金を有しながらも共和党・トランプに敗れており、資金力が大統領選の結果に必ずしも直結するわけではない。戸別訪問等による票の掘り起こしには一定の効果が見込まれる一方、2大政党の大統領候補は予備選を勝ち抜いた段階で十分な知名度を有しており、メディア広告が候補自身や政策の認知度を高める効果は大きくないかもしれない。
なお、2024年大統領選に向けた現時点(4/22までの公表データ)の政治献金額(スーパーPAC含む)はバイデン氏が2.2億ドルと、トランプ氏の1.1億ドルに2倍近い差をつけている。また、トランプ氏は自身の刑事裁判を巡って約0.8億ドルの弁護士費用を3月末時点で拠出しており(注3)、今後も政治献金の一部を裁判費用へと割り当てるため、実際の選挙キャンペーンに用いられる資金はバイデン氏よりも少なくなる可能性が高い。
【注釈】
以上
前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 前田 和馬
まえだ かずま
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経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析
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