“投資詐欺広告”
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24年度も旺盛な設備投資計画

~新たな投資促進策で27年度115兆円目標も射程圏内の可能性~

永濱 利廣

要旨
  • 24年度の設備投資額は企業の減益見通しの中でも、バブル期の名残りが残る1991年度の過去最高を更新する可能性がある。

  • 経済安全保障や戦略産業育成などで政府は投資支援策を掲げるが、円安や新興工業国の人件費高騰などを追い風に企業の国内回帰や経済構造改革を進める好機。

目次

(*)本稿はダイヤモンドオンラインへの寄稿(https://diamond.jp/articles/-/342560)を基に作成。

設備投資にも新たな潮目の変化

2024度の企業収益は増収減益の見通しが多いが、設備投資の計画は旺盛だ。

1~3月期の法人企業景気予測調査の24年度設備投資計画を見ると、収益計画が増収減益となる中、GDP統計の設備投資の概念に最も近い「ソフトウェアを含む設備投資額(除く土地投資額)」は全産業合計で前年度比+7.5%と、23年度計画(同+9.3%)に引き続き高い伸びだ。今月公表された日本銀行の3月短観の設備投資計画でも、企業収益計画が増収減益となる中、全規模合計で24年度当初計画にもかかわらず前年比+5.8%と、高い伸びとなった23年度の当初計画(同+5.6%)を上回る伸びとなっている。

日銀短観結果から独自試算すると、24年のGDP統計での設備投資額は108.0兆円にまで拡大する計算だ。これが実現すれば、これまで最高だったバブル末期の1991年度の102.7兆円を32年ぶりに上回って設備投資額は史上最高を更新することになる。春闘が33年ぶりの高い賃上げ率になるなど、日本経済の潮目の変化を感じさせる動きは他にもあるが、設備投資にもようやく新たな潮流が起きている気配だ。

成長会計に基づけば、これまでは有形・無形の固定資産の蓄積が停滞することで、資本投入量や全要素生産性が低迷することになり、日本経済の潜在成長率は低いままだった。

このため逆説的に考えれば、経済全体や企業それぞれの成長期待が高まることによって設備投資が拡大すれば、生産性が高まる一方、投資による新製品やサービスが生まれ需要拡大により賃金も上がり、経済成長の好循環によって長期停滞から抜け出す原動力になる可能性がある。

背景に政府の国内投資誘導策

設備投資計画が大幅に増加している背景として、米中対立先鋭化など、地政学的リスクの拡大による経済安全保障重視などのマクロ環境の変化や、気候変動やデジタル化といった人類や社会の課題解決が求められていることがある。そして政府はこうした大規模・長期の設備投資の支援をすべく、さまざまな国内投資促進のパッケージ策を打ち出している。

国内投資促進パッケージは「分野別の戦略投資促進」「横断的な取り組み」「グローバル市場を見据えた取り組み」の三つの柱で構成されている。

第一の柱となる「分野別の戦略投資促進」では5部門で構成されており、第一部門は「GX推進戦略による官民投資促進」として「成長志向型カーボンプライシング・規制制度による投資促進策」「GX経済移行債による投資促進策」「省・再エネ」となっている。

第二部門は「DX・経済安全保障・フロンティア」として「半導体・AI・量子」「経済安全保障・フロンティア」、第三部門は「産業インフラ」や「物流」、第四部門は「観光・文化・コンテンツ」、第五部門は「ヘルスケア」となっている。

続いて、第二の柱の「横断的な取り組み」では、特定分野に限らない投資促進策となっている。第一部門は「人への投資」として「賃上げ所得向上」「人的投資・人材競争力の強化」が掲げられ、賃上げ優遇税制の強化やリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業等が含まれる。第二部門は「中堅・中小企業、スタートアップ等」が掲げられ、中堅企業の成長促進に向けた産業競争力強化法の見直しなどが目玉となっている。そして第三部門は「研究開発イノベーション」が掲げられており、イノベーション拠点税制の創設等が含まれている。

第三の柱となる「グローバル市場を見据えた取り組み」は、資産運用立国の実現や対内直接投資・輸出の促進等が掲げられ、三つの柱合計で11府省庁にまたがる200強の国内投資促進策(うち税制16施策、規制・制度18施策)が掲げられている。

そして、24年度以降、設備投資を拡大継続させて2027年度に115兆円超の目標を実現することで成長型経済への移行を目指している。

91年度の過去最高更新の可能性

筆者は、これまで連動性が高い日銀短観(3月調査)の設備投資計画とGDP統計の設備投資のそれぞれの前年比の伸び率の時系列データの関係を基に、GDP統計における名目設備投資の金額を予測してみた。

すると、設備投資は22年度実績の96.9兆円から23年度は102.2兆円、24年度は108.0兆円にまで拡大する見通しだ。これが実現すれば、1991年度の102.7兆円を上回る過去最高水準まで設備投資額が拡大することになり、今年度の経済成長率の大きなけん引役になることが期待される。そして27年度の115兆円目標も射程圏内に入ることになる。

なお、実質ベースで同様の試算をすると、実質設備投資(2015年基準)は22年度実績の89.9兆円から23年度は91.7兆円と既往ピークを更新し、24年度は93.7兆円にまで拡大する計算だ。

経済安保や戦略分野育成で各国が競争

ただ、世界では日本に先駆けて戦略分野を中心に投資を自国内に誘導する産業政策が活発化している。主要国だけで見ても、民間企業設備投資の呼び水となるような政府の支援策にどの国も積極的だ。

例えば中国では、キャッチアップや輸出主導型高度成長経済の終焉や米中対立激化などのもと、「中国製造2025」が掲げられ、中核基幹部品・基礎素材の国内自給率を2025年に70%にすることを目標にしている。また、外国企業の投資環境の改善や誘致促進、輸出管理の見直しも昨年から進めている。

米国でも格差拡大や中間層が疲弊する中で中国への対抗等の課題に対して、CHIPS法やインフレ削減法(IRA)に加えて、労働者中心の通商政策「バイデノミクス」の一環として、国内発明・製造政策や対中投資規制を昨年から始めている。

EUでも、気候変動緩和の主導や域内の良質雇用確保などが課題となる中で、グリーンやデジタルへの移行などに1.8兆ユーロ規模の投資や、特定国への依存低減に向けた戦略的自律等の政策が進められている。

さらに昨年、国家補助ルールの緩和等を含んだグリーンディール産業計画が打ち出される中、ドイツでは成長機会法が成立し、産業政策の方針が発表されている。また、フランスでもEV補助金制度の変更等が行われている。

このように、世界的な産業政策競争が活発化していることからすれば、日本も世界に後れを取らずに競争できる投資促進策が必要といえよう。中でも総事業費が大きく、特に生産段階でのコストが高い電気自動車関連やグリーンスチール・ケミカル、SAF(持続可能な航空燃料)、マイコンやアナログ半導体などについてはより積極的な支援が必要だ。米国でもIRA法で生産や販売段階での支援措置を始めている。

こうした中で日本は、為替が円安水準にあることや新興国での人件費高騰、経済安全保障への意識の強まりなどにより、企業が国内回帰を決断しやすい環境だ。したがって、政府は気候変動対策や経済安保、格差是正等の将来の社会・経済課題解決に向けてカギとなる技術分野や戦略的な重要物資、規制・制度等に着目し、国内の強みへの投資を促す支援策を拡充することが重要だ。

産業競争力強化法で税制優遇

こうした中、日本でも産業政策の国際競争に勝ち抜くべく「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」が2月16日に閣議決定されたことは注目に値する。

法律の概要としては「戦略的国内投資の拡大に向けた戦略分野への投資や生産に対する大規模で長期の税制措置や研究開発拠点としての立地競争力を強化する税制措置」と「国内投資拡大につながるイノベーションや新陳代謝の促進に向けた中堅企業やスタートアップへの集中支援措置」の2本柱となっている。

「戦略的国内投資の拡大」では、内外市場獲得が特に求められる商品の生産販売計画を主務大臣が認定すれば、その生産販売量に応じて税額優遇措置が受けられたり、政府が事業活動における知的財産等の活用状況を調査し一定の知財を用いていることが確認されれば、イノベーション拠点税制の優遇を受けられたりすることができる。

また「国内投資拡大に繋がるイノベーション及び新陳代謝促進」では、(1)中堅企業関連、(2)スタートアップ関連、(3)企業横断的な取り組み、といった3項目に分かれ、「中堅企業者」については、成長につながる事業再編やグループ化に対する税制優遇や設備投資減税の拡充。スタートアップ支援では、①産業革新投資機構(JIC)の有価証券等処分期限を2033年度末から2049年度末に延長、②ディープテック(社会課題の解決に向けて必要な先端技術)スタートアップの事業開発活動(商用の設備投資等)を補助、③LPS(投資事業有限責任組合)へ暗号資産を追加し、暗号資産への投資によるWeb3.0スタートアップへの資金供給を可能とする、④スタートアップがストックオプションを柔軟かつ機動的に発行できる仕組みの整備、の主に4つで構成される。

そして企業横断的な取り組みの支援では、産学連携研究開発に関する標準化と知財を活用した市場創出計画を認定し、INPIT(工業所有権情報・研修館)・NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が助言するなどの措置が盛り込まれている。

33年ぶりの高水準の春闘賃上げや32年ぶりの国内設備投資額という潮目の変化が起きている中で、賃上げと経済活性化を伴う良いインフレを定着させるためには、国内投資により供給力を強化し、日本経済を成長軌道に乗せていくことが不可欠だ。

そのためにはこうした戦略的投資の拡大と、国内投資拡大につながるイノベーションや新陳代謝の促進に向けた取り組みが重要だ。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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