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2024.04.19
アジア経済
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為替
インドネシア・プラボウォ次期政権へ金融市場からの「洗礼」か
~外貨準備高は市場の動揺への耐性に乏しく為替介入には限界、財政規律を維持出来るかに注目~
西濵 徹
- 要旨
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- インドネシアでは2月の大統領選を経てプラボウォ次期政権の樹立に向けた動きがみられる。経済政策の舵取りを担う財務相人事に注目が集まるが、それは同国経済のファンダメンタルズが比較的脆弱であり、財政規律の行方を警戒していると捉えられる。足下のインフレは中銀目標の域内で推移するが、生活必需品を中心とするインフレに加え、ルピア安による輸入インフレも警戒される状況にある。中銀はルピア相場の安定に向けて積極的な為替介入に動いている模様だが、外貨準備高は金融市場の動揺への耐性が乏しいなかで為替介入にも限界がある。次期政権の財政運営を巡って「踏み絵」を迫られているとも捉えられる。
インドネシアでは、2月に実施された大統領選で『3度目の正直』となる形でプラボウォ国防相が勝利を果たすとともに、10月の大統領就任と次期政権の樹立に向けた動きがみられる。次期政権の枠組のなかでは経済政策を担う財務相ポストに注目が集まっているが、ジョコ現政権で財務相を務めるスリ氏を巡っては、これまでの経験などから国際金融市場から厚い信認を得ているものの、続投は難しいとの見方が広がっている。この背景には、国防費に関連してスリ氏とプラボウォ氏との間で見解に大きな隔たりがあるほか、プラボウォ氏が政権公約に掲げた学校給食の無償化や公務員給与の引き上げ、低所得者層を対象とする現金給付や住宅建設の継続など歳出拡大に繋がる施策を掲げるなかで軋轢が強まっているとの見方が強まっていることがある。こうしたことから、次期政権による政策運営を巡っては財政規律の維持や向上といった課題に取り組むことが出来るか否かに注目が集まっているものの、現時点において明確な方向は分からないと捉えられる。このように財政運営に注目が集まる背景には、同国は経常赤字と財政赤字という『双子の赤字』を抱える上、外貨準備高の水準もIMF(国際通貨基金)による国際金融市場の動揺への耐性の有無を示す基準であるARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」に満たないなど耐性が乏しいと見做されるなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)に脆弱さを抱えており、その改善への取り組みが不可欠とみられていることがある。ここ数年は商品高や米ドル高に加え、コロナ禍の一巡による経済活動の正常化の動きも重なりインフレが大きく上振れする事態に直面したものの、一昨年末以降の商品高や米ドル高の一巡を受けてインフレは頭打ちに転じており、昨年後半以降のインフレ率は中銀目標の域内で推移するなど一見すると落ち着きを取り戻している。ただし、エルニーニョ現象など異常気象の頻発による生育不良や供給悪化をきっかけに穀物をはじめとする食料品価格に上昇圧力が掛かるとともに、中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けた国際原油価格の底入れの動きを反映してエネルギー価格も上昇しており、生活必需品を中心にインフレ圧力が強まるなかでインフレ率も加速に転じる動きがみられる。さらに、このところの国際金融市場では米国のインフレの粘着度の高さを理由に米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営に対する見方が変わるなかで米ドル高が再燃しており、通貨ルピア相場に下押し圧力が掛かるなど輸入インフレが懸念される動きもみられる。よって、中銀はインフレが中銀目標の域内で推移しているにも拘らず、先月の定例会合でも政策金利を据え置く慎重な姿勢を維持するなど、外部環境に配慮した政策運営を迫られる展開が続いている(注1)。しかし、国際金融市場では『米ドル一強』とも呼べる環境となるなかでルピア相場は調整の動きを強めており、中銀はルピア相場の安定を目的とする為替介入に追い込まれるなど難しい状況に直面している。なお、同行は為替のスポット市場、ルピア建ノンデリバラブル・フォワード市場、債券市場の3つの市場における『トリプル介入』を頻繁に実施しているとされるなか、足下では「一段と大胆な」(中銀関係者)介入を実施していることを明らかにするなど、状況が一段と緊迫化している様子がうかがえる。金利高が長期化するなかで家計消費や企業部門による設備投資の動きは力強さを欠く動きをみせるなか、中銀にとっては景気下支えの観点から利上げのハードルは高く、為替介入による『時間稼ぎ』に訴えざるを得ないものの、上述のように外貨準備高が金融市場の動揺への耐性が乏しいと見做されるなかでは限界がある。その意味では、足下の状況はプラボウォ次期政権が財政運営を巡って金融市場の信認向上に向けた取り組みを図ることが出来るかの『踏み絵』を迫られていると捉えることも出来る。
注1 3月21日付レポート「インドネシア中銀、引き続きルピア相場の安定を重視する展開」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹