利下げしても良さそうだが、すぐにではない(2月雇用統計)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は4月にマイナス金利を解除した後、当分の間、金利を据え置くだろう。
  • FEDは6月に利下げを開始、FF金利は年末に4.50%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。S&P500は▲0.7%、NASDAQは▲1.2%で引け。VIXは14.7へと上昇。

  • 米金利はツイスト・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.283%(+0.7bp)へと上昇。実質金利は1.791%(▲1.6bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲40.3bpへとマイナス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは148近傍へと低下。コモディティはWTI原油が78.0㌦(▲0.9㌦)へと低下。銅は8579.5㌦(▲61.0㌦)へと低下。金は2185.5㌦(+20.3㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、イールドカーブ(前日差)、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国 イールドカーブ、イールドカーブ(前日差)、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

注目点

  • 2月雇用統計はインフレ沈静化という点において好ましい結果であった。雇用者数は+27.5万人と市場予想(+20.0増加)を大幅に上回ったものの、不可解な強さを示した1月分(と2023年12月分)が▲16.7万人分も下方修正されたため、労働市場の過熱度合いは和らいだ。また平均時給は前月比+0.1%、前年比+4.3%へと減速。インフレ沈静化の「ラスト・ワンマイル」はなお遠いが、着実な前進がみられている。

  • 上述の通り雇用者数は+27.5万人と強かった。ただし、1月と同様に以下の2点を踏まえると見た目の数値ほどの強さは感じられない。まずフルタイム労働者が3ヶ月連続で減少したことがある。2023年央以降の傾向として、フルタイム労働者が頭打ちとなる中でパートタイムの増加が顕著になっており、この傾向は2月も続いた。副業の増加による(雇用者数の)二重計上問題など統計作成上の技術的な難しさもあり、労働市場の量的な強さが誇張されている可能性が指摘できる。レジャー・ホスピタリティ(+5.8万人)、建設(+2.3万人)、運輸(+2.0万人)、小売(+1.9万人)などは副業による増加によって実態よりも数値が押し上げられているのかもしれない。また、ここ数ヶ月の傾向として、雇用者数の増加が教育・ヘルスケア(+8.2万人)と政府部門(+5.2万人)という景気に敏感でない業種に集中している。雇用者数の増加が示すほど、労働市場は過熱していない可能性がある。そうした下で週平均労働時間は34.3時間と短縮化傾向にある。

米国 雇用者数
米国 雇用者数

米国 フルタイム労働者比率
米国 フルタイム労働者比率

米国 雇用者数、フルタイム労働者比率
米国 雇用者数、フルタイム労働者比率

米国 週平均労働時間
米国 週平均労働時間

  • 失業率は3.9%へと0.2%pt上昇(小数点2桁では3.66%→3.86%)。2023年4月の3.4%から小幅に上昇しているものの、景気後退を象徴するような水準には程遠い。失業者を広義の尺度で捉えて算出するU6失業率(フルタイムの職が見つからず止む無くパートタイム勤務に従事している人を失業者と見なす)も7.3%と安定している。

  • 労働市場の厚みを示す労働参加率は62.54%(1月62.52%)と概ね横ばい。パンデミック発生後の最高値である62.8%(2023年8月)は回復できていないものの、潜在的に達成可能な水準(CBO推計値)は凌駕している。1月は55歳以上(38.5%)が横ばいに留まった一方で、働き盛り世代の25-54歳(83.3%→83.5%)が上昇し、労働力を支えた。

米国 失業率
米国 失業率

米国 労働参加率
米国 労働参加率

米国 失業率、労働参加率
米国 失業率、労働参加率

米国 年代別労働参加率
米国 年代別労働参加率

  • 賃金インフレの帰趨を読む上で重要な平均時給は前年比+4.3%(12月+4.4%)へと鈍化した。前月比では+0.14%(1月+0.52%)へと減速し、瞬間風速を示す3ヶ月前比年率は+4.03%(1月+5.02%)と急低下。同3ヶ月平均は+4.33%(1月+4.26%)も加速が一服した。依然として賃金インフレのしつこさを印象付ける数字であるが、求人件数の減少、自発的離職率(数値上昇は待遇改善を求めて労働者の転職活動が活発化していることを示す)の低下といった賃金インフレの沈静化を示すデータを踏まえれば、先行きは減速傾向を辿る公算が大きいと判断される。

米国 平均時給
米国 平均時給

  • 2月雇用統計はフルタイム労働者の増加一服、失業率の上昇、平均時給の鈍化といった労働市場の弱さを内包しており、この点において利下げを支持する結果であったと言える。しかしながら、20万人を超える雇用者数の増加が利下げの緊急性を減じることに疑いの余地はない。この点を踏まえると、やはり5月の利下げ確率は低いと判断され、早くても6月というのが現時点で妥当に思える。3月に発表されるデータが顕著に落ち込まければ、6月の利下げもかなり危うくなりそうだ。

藤代 宏一


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