むしろ強まっているかも知れない日本企業の「ためこみ体質」 それでもマイナス金利解除には十分な賃上げ率

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は4月にマイナス金利を解除した後、当分の間、金利を据え置くだろう。
  • FEDは6月に利下げを開始、FF金利は年末に4.50%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+1.0%、NASDAQは+1.5%で引け。VIXは14.4へと低下。
  • 米金利はツイスト・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.276%(▲2.8bp)へと低下。実質金利は1.806%(+1.0bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲42.1bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは148近傍へと低下。コモディティはWTI原油が78.9㌦(▲0.2㌦)へと低下。銅は8640.5㌦(+63.5㌦)へと上昇。金は2165.2㌦(+7.0㌦)へと上昇。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

図表5
図表5

経済指標

  • ECB理事会は4会合で政策金利の据え置きを決定、中銀預金金利は+4.0%とされた。利下げにはインフレ率が持続的に低下することを示すデータ、すなわち賃金交渉の帰趨を見極める必要があるとの判断を維持。政策金利は4月も据え置きが予想され、利下げ開始は6月以降になる見込み。

注目点

  • 昨日発表された1月毎月勤労統計は、公式系列が賃金上昇率の鈍さを示した一方、参考系列として公表されている共通事業所版は底堅い結果であった。日銀が共通事業所版の数値を重視しているとみられることを踏まえると、異例の金融緩和策であるマイナス金利の解除には「青信号」が灯ったと言えるだろう(日銀の資料には共通事業所版の数値が登場することが多い)。もっとも、植田総裁が「第二の力」と表現する、賃金上昇を起点とする物価上昇圧力はどちらの尺度でみても物価目標を上振れ方向に脅かすものではない。ここへ来て日本企業の賃金決定スタンスには変容の兆しがみられ、毎年の賃上げが定着しつつあるものの、欧米対比では依然として消極的である。事実、付加価値をどれだけ労働者に還元したかを示す労働分配率(法人企業統計)は急速に低下している。昨年の12~3月頃は、大企業を中心に「〇〇年ぶりにベア実施」「最大〇〇%の賃上げへ」などと威勢の良い報道が相次いだものの、全体としての賃上げは利益水準に見合っておらず、賃上げと価格転嫁の好循環は微弱と言わざるを得ない。したがって、欧米中銀が実施したようなインフレ抑制を目的とする、連続利上げの必要性が乏しい状況に変わりはない。筆者は日銀が4月(もしくは3月)にマイナス金利を解除した後、当分の間、政策金利を据え置くとの予想を維持する。

図表6
図表6

図表7
図表7

図表8
図表8

  • まず公式系列に目を向けると、ヘッドラインである現金給与総額は前年比+2.0%と12月の+0.8%から加速した。このうち基本給に相当する概念である所定内給与は+1.4%と2022年度対比で加速傾向にあるとはいえ、頭打ち感が強まっている。また所定外給与(≒残業代)については製造業等の減少を背景に+0.4%と弱さが続いている(12月は▲1.2%)。振れの大きい特別給与は+16.9%と跳ねた。基調的な賃金を把握する上で重視すべき一般労働者(≒正社員)の所定内給与は+1.6%であった。

  • 他方、サンプル変更の影響を受けにくいとされる共通事業所版は1月も底堅さを維持した。現金給与総額は前年比+2.0%、所定内給与は+2.0%、所定外給与は+0.0%、特別給与は+5.9%と安定感がある。一般労働者の所定内給与は+2.0%と、5ヶ月連続で2%を超えている。

図表9
図表9

図表10
図表10

図表11
図表11

  • 公式系列の鈍さは「固定費である基本給の増加をその他の削減によって相殺する」というデフレーショナリーな企業経営の残存を疑わせるが、それでも約30年ぶりの賃金上昇率であることに変わりはない。共通事業所版の底堅さを踏まえれば、マイナス金利を解除する合理性はある程度担保されていると言っても良さそうだ。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。