マイナス金利解除で進む円安

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は4月にマイナス金利を解除した後、当分の間、金利を据え置くだろう。
  • FEDは6月に利下げを開始、FF金利は年末に4.50%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.5%、NASDAQは+0.6%で引け。VIXは14.5へと上昇。
  • 米金利はブル・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.304%(▲2.3bp)へと低下。実質金利は1.797%(▲2.7bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲45.4bpへとマイナス幅拡大。
  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは149前半へと低下。コモディティはWTI原油が79.1㌦(+1.0㌦)へと上昇。銅は8577.0㌦(+85.5㌦)へと上昇。金は2158.2㌦(+16.3㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)、長短金利差(2年10年)
米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)、長短金利差(2年10年)

(%) 米国 イールドカーブ
(%) 米国 イールドカーブ

(bp) 米国 イールドカーブ(前日差)
(bp) 米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

経済指標

  • 1月JOLTS統計によると求人件数は前月比▲0.3%、886万件と市場予想に概ね一致。転職活動の活発度合いを示す自発的離職率も2.15%へと低下した。労働需給の緩和が窺え、賃金上昇圧力が落ち着きつつあると判断される。

米国 自発的離職率・平均時給
米国 自発的離職率・平均時給

  • パウエル議長の議会証言は「インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで利下げは適切ではない」、「今年のある時点から利下げを始めるのが適切になる」として従来からの見解を維持。3月FOMCは金利据え置きが広く予想されている。大きな波乱は見込まれない。

注目点

  • 筆者は(昨日時点で)今週中に日銀から何らかのリーク報道がないならば、3月のマイナス金利解除は見送りではないかと考えていたが、状況は一段と流動的になった。昨日の当レポートで「日銀が3月のマイナス金利解除に向けて地均しを進めようと画策しているなら、通常(?)はリーク報道や観測記事が出回り、金融市場がざわざわとする頃合いである。筆者の知る限り現時点で核心的な報道はないが、今週あたりから『関係者』を情報源とする報道が増える可能性には注意が必要であろう」とした矢先、時事通信が「日銀委員、3月解除で意見表明へ マイナス金利、次回会合で―決定なら17年ぶり利上げ」と題する記事を報じ、市場関係者がざわついた。記事によれば「少なくとも1人がマイナス金利解除が適切だと主張」とするとしており、17年ぶりの利上げに前向きな政策委員が議案を提出(金融政策を維持する議長案に反対票を投じる)する計画であることが伝えられている。ここで言う「1人」については2月29日に「2%の物価目標の実現が視野に入ってきている状況。その認識に沿って3月、その次も対応していきたい」と発言した高田委員が考えられる。仮にそうであるとしたら田村委員も同調する可能性があり、複数名がマイナス金利解除を提案する事態も想定される。

  • 日銀がマイナス金利解除に踏み切った場合、金融市場にはどういった影響があるだろうか。その点、筆者は株価について「影響なし」を予想する。0.1%程度の短期金利引き上げがもたらす直接的な引き締め効果は限定的であり、マイナス金利解除と同時に「どんどん利上げしていくわけではない」方針が示されれば、安心感が広がるだろう。もっとも、銀行株については一層構造、すなわち超過準備全体に付利が一律にかかるのであれば収益への好影響が大きい。そうなれば相場上昇のけん引役となる可能性がある。

  • 為替については、日米金利差縮小を通じて円高との見方が一般的かもしれない。ただし、昨年7月と10月に実施した2度のYCC修正後に円安が進んだ経緯を踏まえる必要があるだろう。当時は米金利上昇局面であり、それがUSD/JPY上昇を促したことに疑いの余地はないが、「これでしばらく円高要因はない」との見方から安心して円売りを膨らました投機筋も多かったと推察される。こうした過去問に鑑みると、マイナス金利解除時も「追加的な利上げは限定的」と判断した投機筋が円売りを仕掛ける可能性は十分にあるだろう。昨日の報道に対してUSD/JPYの反応が鈍く、150半ばから149前半まで1円程度の円高に過ぎなかったのは、そうした動きが背景にあったからかもしれない。筆者はFedの利下げを前提に先行き12ヶ月では138程度まで円高方向への推移を見込むが、向こう数ヶ月は円安方向へ動く可能性が相応に高いと判断している。

藤代 宏一


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