人々の環境意識は高まり続けるのか?(2)

~若者や教育水準の高い人々は環境意識が高い傾向~

前田 和馬

要旨
  • 世界価値観調査の個票データを用いた分析によると、「若者」「教育水準が高い」「生活満足度が高い」「政治的にリベラル」といった属性を持つ人々は環境意識が高い傾向にある。
  • 環境意識の高い若者に世代交代が進んでいくことを背景に、足下の環境意識の上昇トレンドは今後も持続することが見込まれる。また、新興国における教育水準の改善も世界的な環境意識の高まりの追い風となるだろう。
  • 一方、人々の生活満足度が低下するような景気後退時には気候変動対策の停滞が予想される。また、移民問題等を契機として政治的な右傾化が強まる場合、環境政策推進の阻害要因となるだろう。

世代や教育水準で異なる環境意識

今後の世界的な気候変動対応の動向を占ううえでは国民の抱く環境意識が重要になる。2023年12月27日付けレポート「人々の環境意識は高まり続けるのか?(1)」では「世界価値観調査(WVS:World Values Survey)」における「経済と環境のどちらが大事か(図表1)」に関する回答の国別集計値を用いて、「1990年半ば以降、世界的に環境を重視する人々の割合が増加傾向にあること」「こうした環境意識の高まりは景気が悪化する際に一服すること」「環境意識は生活水準の高さと正の相関を示す一方、温暖化や海面上昇による影響が懸念される国の環境意識が必ずしも高いわけではないこと」を指摘した。

図表1
図表1

本稿では世界価値観調査の個票データを用いて、環境意識が年齢・性別・政治的価値観といった属性とどのような関係にあるのかの分析結果を示す。

図表2は環境を重視する人々(上記質問で1を選択)の割合を属性別に示したものである。まず、環境を重視する人々の割合は60代以上で低く、若者の方が高い傾向にある。こうした世代間の違いは育ってきた時代的背景の違い、すなわち青年期から環境保護に関する情報に多く接してきた影響が大きいと考えられる(注1)。一方、教育水準の高さも環境意識の高さへと繋がる。教育水準の高い人々の方が自国の政策や国際的な取り組みへの関心が強く、こうした潮流をサポートするような考えを持ちやすいと推察される。また、生活満足度や自国内における相対的な所得水準も環境意識と正の相関を有する。前回レポートで指摘した通り、国別の環境意識の違いは経済水準に依存しており、こうした傾向は同一国内の個人間格差にも当てはまるとみられる。すなわち、経済的苦境を強いられている人々は環境保護よりも雇用の確保や生活水準の改善を重視すると考えられる。他方、政治的価値観に関してはリベラルな人々の方が環境意識は強い一方、保守的な人々の環境政策へのスタンスは景気悪化等に影響を受けにくく、調査回ごとの変化が少ない傾向にある。

図表2
図表2

なお、図表2は属性別の集計値であり、環境意識とこれらの属性の因果関係を示すものではない。例えば、教育水準の高い人は所得や生活満足度が高い傾向にある場合、環境意識に影響しているのは教育水準のみであり、所得や生活満足度は「見せかけの相関」で環境意識に影響していない可能性がある。そこで、環境重視の場合に1を取るダミー変数を被説明変数、これらの属性を説明変数としてロジスティクス回帰を行った分析結果が図表3である(注2)。これらの属性の説明変数は概ね1%水準で有意であり、この結果は「若者」「教育水準が高い」「生活満足度が高い」「政治的にリベラル」といった属性を持つ人々の環境意識が高いことを示唆している。また、図表2では性別ごとの差は見られないものの、図表3のモデル式(5)と(6)では女性ダミーの係数が正に有意であり、性別ごとの学歴や政治的価値観の違いを考慮した後においては、女性の環境意識が男性よりも高い可能性がある。

今後の環境意識に関する考察

こうした属性別の環境意識の違いから、将来的な環境意識に関して何が示唆されるだろうか。

まず、世代交代によって環境意識の高い世代の割合が増えていくことを踏まえると、足下の環境意識の上昇トレンドは今後も緩やかに持続することが見込まれる。また、新興国を中心に教育水準が高まる場合、国際的な取り組みや政府の啓蒙活動に対する理解が促進されやすくなり、こうした国々における気候変動対策への好意的な意見も増加することが予想される。

一方、これまでの環境意識が景気動向に左右されてきたのと同様、人々の生活満足度が低下するような景気後退時には気候変動対策の停滞が予想される。加えて、移民問題等を契機に政治的な右傾化が強まる場合においても、国際的な取り組みである環境政策へのネガティブなイメージが強まり、政策推進の阻害要因となる可能性がある。

図表3
図表3

【注釈】

  1. なお、環境政策による効果が発現するまでには時間を要するため、高齢になるほど環境政策への関心が弱くなるとの可能性は否定できない。
  2. ロジスティクス回帰は被説明変数が0か1などの質的変数であるときに用いられる分析手法であり、その累積密度関数がロジスティクス分布に従うと仮定する。線形回帰モデルと異なり、説明変数が環境意識に与える影響(限界効果)はその説明変数の水準によって変化する。なお、世界価値観調査は同一対象者を複数期間にわたって調査したパネルデータではないため、環境意識を規定する因果分析に限界がある点には留意が必要である。
以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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