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2024.02.26
アジア経済
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トルコ中銀、カラハン体制の初会合で利上げ一服も、再利上げを排除せず
~エルカン前体制の姿勢の維持をあらためて強調も、エルドアン氏の「尾を踏む」可能性はくすぶる~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコ中銀は22日の定例会合で政策金利を45.00%に据え置いた。同行による金利据え置きは9会合ぶりとなる。同行は今月初めにエルカン前総裁が退任し、今回はカラハン新総裁の下で初会合となるが、前回会合での据え置き見通しにしたがった。カラハン氏はエルカン前体制の姿勢を維持する考えを示す一方、足下のインフレは賃金上昇やリラ安も重なり高止まりが続く。中銀はインフレ期待が収束するまで現行の引き締め姿勢を維持する考えを示す一方、インフレ期待が悪化すれば再利上げに動く可能性に含みを持たせた。他方、最新のインフレ報告書では従来見通しが据え置かれており、インフレ要因が山積するなかで対応を迫られる可能性は残る一方、エルドアン氏の「追を踏む」ことになりかねないことにも要注意と言えよう。
22日、トルコ中銀は定例の金融政策委員会を開催し、政策金利である1週間物レポ金利を45.00%に据え置く決定を行った。同行を巡っては、今月2日にエルカン前総裁が退任を発表し、後任総裁に副総裁であったカラハン氏が昇格する人事異動が行われた(注1)。今回はカラハン氏の下で実施される初めての定例会合であり、同行はエルカン前体制下で8会合連続の利上げに動いてきたものの、先月の前回会合において利上げ打ち止めを示唆した流れにしたがったと捉えられる(注2)。他方、このところの同行総裁はチェティンカヤ氏(注3)、ウイサル氏(注4)、アーバル氏(注5)と政策運営を巡るエルドアン大統領との対立を理由に更迭されるなど、独立性が危ぶまれる動きが露呈した。エルカン前総裁の下で中銀は物価と為替の安定を目的に累計3650bpもの大幅利上げに動いたものの、今回の利上げ局面ではエルドアン大統領が緊縮政策を是認するなど『変心』を窺わせる動きがみられた。事実、エルカン氏の辞任は一部メディアによる家族を巡る告発記事をきっかけに大々的なネガティブ・キャンペーンが展開されたことが直接的な引き金となっており、歴代総裁がエルドアン大統領との確執を理由に更迭された状況とは大きく異なる。さらに、後任総裁となったカラハン氏はエルカン氏同様に海外での業務経験が豊富である上、総裁就任直後に金融引き締めを継続する方針を表明するなど、エルカン前体制下での方針を堅持する姿勢を示した。一方、同国では来月末に統一地方選挙が実施されるなか、政府はインフレが長期化するなかでその影響緩和を目的に1月からの最低賃金の引き上げ幅を49%と前年(55%)並とする決定を行っており、インフレ収束の見通しが立たない状況が続くなかで如何なる影響が出るかが注目された。1月のインフレ率は前年同月比+64.86%と前月(同+64.77%)から加速して中銀目標(5%)を大きく上回る推移が続いている上、前月比も+6.7%と前月(同+2.9%)から上昇ペースが加速するなど上振れする動きが確認されている。さらに、エルカン前体制下での大幅利上げやシムシェキ財務相による『正常化』にも拘らず、国民の間で通貨リラに対する信認低下を反映してリラ相場はジリ安が続くなど、輸入インフレに歯止めが掛からない状況に陥っている。こうした状況ながら、カラハン新体制の下ではエルカン前体制下での見通しに沿う形で今回は様子見に転じたと捉えられる。会合後に公表した声明文では、足下の物価動向について「見通しに沿った動き」と評価しつつ「サービスインフレの粘着度や地政学リスク、食料インフレが続くなかで、インフレ期待と企業の価格決定行動、賃金上昇の影響を注視する」との見方を示す。その上で、これまでの金融引き締めについて「引き締まったスタンスはディスインフレ実現に向けた重要な要素となるリラの実質的な上昇プロセスに引き続き寄与する」との見方を示す。一方、政策運営について「月次インフレの基調的なトレンドが著しく且つ持続的に低下してインフレ期待が予想範囲に収束するまで現行のスタンスを維持する」とする一方、「インフレ期待の大幅且つ持続的な悪化が予想される場合は政策スタンスを引き締める」として追加利上げを排除しない考えを示している。また、「市場メカニズムの機能向上とマクロ環境の安定に向けてマクロプルーデンス政策を継続する」ほか、「金融引き締めプロセスを支援すべく量的引き締めも継続する」姿勢に加え、先行きも「インフレ動向を注視しつつあらゆる手段を断固として行使する」、「データに基づく形で予見可能な枠組で決定を行う」との従来からの考えも示している。なお、今月初めに中銀が公表した最新のインフレ報告書では、今年末時点のインフレ見通しを36%とする従来見通しを据え置いているものの、上述のようにインフレに繋がる要因が山積するとともに、リラ安に歯止めが掛からない状況も重なり上振れするリスクは極めて高い。中銀が追加利上げを排除しない考えを示したことは大きいと捉えられる一方、エルドアン大統領の『尾を踏む』ことにもなりかねないことには要注意である。
注1 2月5日付レポート「トルコ中銀・エルカン前総裁、メディアからの批判が高まるなかで突然の辞任」
注2 1月26日付レポート「トルコ中銀は利上げ打ち止めへ、難しい舵取りを迫られる局面は続く」
注3 2019年7月8日付レポート「トルコ・エルドアン大統領、中銀総裁更迭で独立性への懸念が再燃」
注4 2020年11月9日付レポート「トルコ中銀、2代連続の更迭で独立性への疑念再燃、リラ相場に悪材料」
注5 2021年3月22日付レポート「やはり、エルドアン大統領の堪忍袋の緒は切れた...」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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