オーストラリア中銀、インフレ鈍化を確認も追加利上げを排除せず

~利上げのハードルは高く現行姿勢を維持すると見込まれ、豪ドル相場は動意の乏しい展開が続こう~

西濵 徹

要旨
  • オーストラリアでは過去2年以上に亘りインフレが中銀目標を上回る推移が続く。不動産バブル懸念が高まったことも重なり、中銀は金融引き締めを進めて一昨年以降累計425bpの利上げを実施した。他方、物価高と金利高の共存を受けて足下の景気は頭打ちしており、国内・外双方に不透明要因が山積する。また、商品高と米ドル高の一巡も追い風に足下のインフレは2年ぶりの水準に鈍化しており、金融市場では中銀による早期の利下げが意識される動きもみられる。こうしたなか、中銀は6日の定例会合で政策金利を2会合連続で4.35%に据え置く決定を行った。しかし、足下のインフレは鈍化するも高過ぎるとの認識を示した上で、先行きの政策運営を巡って利上げに含みを持たせる考えをみせる。会合後に記者会見に臨んだ同行のブロック総裁も金融市場の逸る動きを諫める姿勢をみせる。利上げのハードルは高いなか、当面は現行姿勢を維持する可能性が高い一方、当面の豪ドル相場は動意の乏しい展開が続くであろう。

オーストラリアでは過去2年以上に亘ってインフレ率が中銀目標を上回る推移が続いている。同国においては、中銀がコロナ禍対応を目的に異例の金融緩和に舵を切ったものの、その後はコロナ禍の一巡による景気回復が進むとともに不動産市況が急上昇してバブル化が懸念されたことに加え、商品高と米ドル高による通貨豪ドル安も重なりインフレが上振れする事態に直面した。よって、中銀は段階的に金融引き締めの動きを強めるなど、一昨年5月以降に累計425bpもの利上げを実施しており、商品高や米ドル高の動きが一巡したことも重なり、一昨年末をピークにインフレは頭打ちに転じた。他方、金利上昇を受けて不動産市況は一旦頭打ちしたものの、その後は金利高により供給が減少する一方、国境再開による移民流入などに伴う需要増加による需給ひっ迫を反映して不動産価格は再び底入れした。さらに、金利上昇に加え、昨年7月からの最低賃金の大幅引き上げにも拘らず雇用環境は堅調な推移が続くとともに、賃金上昇の動きが家計消費を下支えする展開が続いた。なお、足下の景気は内・外需双方に力強さを欠く動きを強めていることを反映して頭打ちの様相を強めている上(注1)、その後も中国の景気減速を受けた商品市況の調整の動きを受けて交易条件指数は下振れする動きのほか、堅調な推移が続いた雇用環境を取り巻く状況に変化の兆しがうかがえるとともに、不動産市況の勢いにも陰りが出るなど景気の下振れに繋がる材料は山積している。そして、直近12月のインフレ率は前年同月比+3.4%と中銀目標を上回る推移が続くも、前月(同+4.3%)から鈍化して約2年ぶりの水準となっているほか、中銀が重視する変動の大きい財や観光関連を除いたベースでも同+4.2%と前月(同+4.8%)から鈍化して2年弱ぶりの水準となるなど、落ち着きを取り戻しているようにみえる。なお、同国では伝統的に物価指標を四半期ベースで公表してきた経緯があり、昨年10-12月のインフレ率は前年同期比+4.05%と前期(同+5.37%)から鈍化して丸2年ぶりの水準となっている上、トリム平均値ベースのコアインフレ率も同+4.2%と前期(同+5.1%)から鈍化して2年弱ぶりの伸びとなるなど、ともに頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。しかし、前期比の伸びをみると雇用環境の底堅さを反映してサービス物価に上昇圧力がくすぶる上、財物価を巡っても非貿易財を中心に上昇の動きが続くなど内生的なインフレ圧力がくすぶる状況は変わらない。さらに、上述のように実体経済を巡る不透明要因が山積するなか、足下のインフレ鈍化が確認されたことで国際金融市場においては中銀が早期の利下げに動くとの観測が強まり、豪ドル相場は頭打ちの動きを強めるなど輸入インフレが再燃する懸念もくすぶる。こうしたなか、中銀は6日に開催した定例会合において政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レートを2会合連続で4.35%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、足下の物価動向について「鈍化するも依然高水準にある」との認識を示した上で、「財価格は想定を下回るも、サービス物価は想定通りながら依然高水準が続いている」としつつ「金利上昇は需給バランスを促しているが、インフレが依然として実質所得を圧迫するなかで家計消費の伸びは弱く、住宅投資も同様に弱い」との見方を示している。その上で、先行きについて「景気の見通しは極めて不透明」とした上で、「明るい兆候はあるが依然リスクを注視している」としつつ「インフレ率は来年末に目標域に戻り、再来年半ばに目標域の中央値に回帰する」との見通しを示す一方、「サービスインフレが長期化する可能性があるほか、中国景気の動向やウクライナや中東情勢の物価への影響は不透明な上、金融政策の効果発現や企業の価格決定行動や賃金の行方も不確実」との見方を示している。そして、先行きの政策運営について「インフレを目標域に戻すことが最優先」との考えを改めて強調した上で、「インフレが持続的に目標域に回帰するにはしばらく時間を要する」、「その実現に向けた金利水準はデータとリスク次第であり、さらなる利上げを否定出来ない」と追加利上げに含みを持たせた上で「インフレを目標域に戻す断固とした決意は変わらず、この実現に向けて必要なことを行う」との従来からの考えを改めて示している。また、会合後に記者会見に臨んだ同行のブロック総裁は政策運営を巡って「インフレ抑制にはまだやるべきことがある」との考えを示すとともに、「政策手段についてはすべてを排除しない」とする一方、政府が物価高対応を目的に所得税減税の対象拡大を検討していることについて「減税は物価動向を巡る重要事項ではない」との考えを示している。また、「インフレを再加速させないようにする必要がある」とした上で「インフレ目標の実現に向けた隘路にはまる兆しはあるが、リスクバランスは均衡している」としつつ、「インフレを目標(2~3%)の中央値に抑えることを望んでおり、インフレが目標域に回帰して留まると確信する必要がある」との認識を示している。そして、金融市場において利下げ観測が出ていることに関連して「利下げを検討する前にはインフレ動向について確信を持てることが必要」と述べるなど、金融市場の逸る動きをけん制する姿勢をみせている。こうした状況を勘案すれば、実施に利上げに動くハードルは高いと見込まれるものの、同行は先行きも政策金利をしばらく現行水準で維持する可能性が高まっていると判断出来るほか、豪ドル相場については動意の乏しい展開をみせる可能性が高いと見込まれる。

図 1 コアロジック住宅価格指数(前月比)の推移
図 1 コアロジック住宅価格指数(前月比)の推移

図 2 インフレ率の推移
図 2 インフレ率の推移

図 3 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
図 3 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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