3月か5月かの違い それでも雇用統計は強すぎた

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月36,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は4月にマイナス金利を解除した後、当分の間、金利を据え置くだろう。
  • FEDは5月に利下げを開始、FF金利は年末に4.50%(幅上限)への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+1.1%、NASDAQは+1.7%で引け。VIXは13.9へと低下。

  • 米金利はベア・フラット化傾向。予想インフレ率(10年BEI)は2.210%(+1.6bp)へと上昇。実質金利は1.809%(+12.5bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲34.8bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面高。USD/JPYは148前半へと上昇。コモディティはWTI原油が72.3㌦(▲1.5㌦)へと低下。銅は8482.0㌦(▲52.5㌦)へと低下。金は2036.1㌦(▲16.9㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

注目点

  • 1月米雇用統計は逆ポジティブ・サプライズ。雇用者数は35.3万人増加と市場予想(18.5万人増加)を遥かに凌駕した。また平均時給は前月比+0.6%、前年比+4.5%へと再加速。インフレ沈静化の「ラスト・ワンマイル」が遠いことを印象付けた。3月FOMCにおける利下げは見送られる公算が大きい。FF金利先物が織り込む3月の利下げ確率は2割強まで低下した。

  • 雇用者数は+35.3万人と市場予想(+18.5万人)を大幅に超過。同時に過去2ヶ月分が+12.6万人上方修正されるという付録もついてきた。以下の2点を踏まえると見た目の数値ほどの強さは感じられないが、それでも第一印象は「強すぎる」。その中で観察された弱い側面としては、まずフルタイム労働者が2ヶ月連続で減少したことがある。2023年央以降の傾向としてフルタイム労働者が頭打ちとなる中でパートタイムの増加が顕著になっており、この傾向が過去2月は特に強まっている。副業の増加による(雇用者数の)2重計上問題など統計の技術的な難しさもあり、労働市場の量的な強さが誇張されている可能性が指摘できる。また、ここ数ヶ月の傾向として、雇用者数の増加が教育・ヘルスケア(+11.2万人)と政府部門(+3.6万人)という景気に敏感でない業種に集中していることも重要。専門職(+7.4万人)、小売(+4.5万人)、製造業(+2.3万人)は「堅調」の範疇に収まっており、レジャー・ホスピタリティは僅か1.1万人の増加に過ぎない。

米国 雇用者数
米国 雇用者数

米国 フルタイム労働者比率
米国 フルタイム労働者比率

米国 雇用者数、米国 フルタイム労働者比率
米国 雇用者数、米国 フルタイム労働者比率

  • こうした著しい雇用者数増加とは裏腹に、週平均労働時間は34.1時間へと不可解に短縮化した。悪天候が影響した可能性が指摘できるとはいえ、季節調整の限界など統計の攪乱を疑わざるを得ない。

  • 失業率は3.7%と横ばい(小数点2桁では3.74%→3.66%)。依然として景気後退を象徴するような一方的上昇には至っていない。失業者を広義の尺度で捉えて算出するU6失業率(フルタイムの職が見つからず止む無くパートタイム勤務に従事している人を失業者と見なす)も7.2%と安定している。

米国 週平均労働時間
米国 週平均労働時間

米国 失業率
米国 失業率

米国 週平均労働時間、米国 失業率
米国 週平均労働時間、米国 失業率

  • 労働市場の厚みを示す労働参加率は62.52%(12月62.48%)へと小幅上昇。パンデミック発生後の最高値である62.8%(2023年7月)は回復できていないものの、潜在的に達成可能な水準(CBO推計値)は凌駕している。1月は55歳以上(38.4%→38.5%)、働き盛り世代の25-54歳(83.3%→%)が双方とも回復した。

米国 年代別労働参加率
米国 年代別労働参加率

  • 賃金インフレの帰趨を読む上で重要な平均時給は前年比+4.5%(12月+4.3%)へと伸び率を高めた。前月比では+0.55%(12月+0.38%)と直近の基調を大幅に上振れ、瞬間風速を示す3ヶ月前比年率は+5.38%へと急加速、同3ヶ月平均でも+4.46%へと加速した。週平均労働時間の減少によって時給の強さが誇張された可能性を考慮しても、賃金インフレのしつこさを印象付ける数字であった。求人件数の減少、自発的離職率(数値上昇は待遇改善を求めて労働者の転職活動が活発化していることを示す)の低下といった賃金インフレの沈静化を示すデータを踏まえれば、先行きは減速傾向を辿る公算が大きいと判断されるが、それでも賃金上昇圧力がなお強いことを浮き彫りにした。

米国 平均時給
米国 平均時給

米国 自発的離職率・平均時給
米国 自発的離職率・平均時給

米国 平均時給、米国 自発的離職率・平均時給
米国 平均時給、米国 自発的離職率・平均時給

  • 1月雇用統計はFedの早期利下げを否定する結果であり、このまま大きな波乱がなければ3月の利下げはかなり遠のいたと判断される。もっとも、ISM製造業の50割れが続く中でサービス業も50割れが視野に入るなど、いくつかの景気先行指標には弱さがみられている(1月ISMサービスは本日公表)。これらが大幅な回復を示すようであれば、話は変わってくるが5月の利下げ開始シナリオは現時点で修正する必要がなさそうだ。

藤代 宏一


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