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2024.02.05
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トルコ中銀・エルカン前総裁、メディアからの批判が高まるなかで突然の辞任
~理由はいわゆる「ネガキャン」対応、後任総裁はエルカン氏同様に海外経験豊富なカラハン氏が昇格~
西濵 徹
- 要旨
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- 2日、トルコ中銀のエルカン前総裁が突然の辞任を表明した。同氏は昨年の大統領選・総選挙後の6月に中銀総裁に就任し、シムシェキ財務相とのタッグで物価と為替の安定を目的に大規模利上げに舵を切ってきた。しかし、足下のインフレは高止まりして国民生活も厳しさを増すなか、このところはメディアでの家族を巡るネガティブ・キャンペーンに晒される難しい状況に直面していた。エルカン氏は辞任の理由に家族を守るためと「個人的理由」を挙げる一方、シムシェキ財務相やユルマズ副大統領は相次いで中期経済計画を堅持する方針を示すなど、金融市場の懸念への「火消し」に動いた。後任総裁にはエルカン氏同様に海外での経験が豊富なカラハン副総裁が昇格するなど、政策の継続性を担保する方針を示している。ただし、その道のりは平たんではなく、エルドアン大統領や国民には「辛抱強さ」が求められる展開が続くであろう。
トルコ中銀のエルカン前総裁は今月2日に突如辞任を表明するとともに、翌3日付の官報で後任総裁に副総裁であったカラハン氏が昇格することが明らかにされた。エルカン氏を巡っては、昨年の大統領選、及び総選挙後の6月に中銀総裁に就任するとともに、その後はインフレ抑制と通貨リラの安定に向けて断続利上げに舵を切っており、先月の定例会合まで8会合連続で累計3650bpもの大幅利上げを断行してきた(注1)。ここ数年のトルコにおいては、インフレが高止まりする状況にも拘らず『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の下で中銀は低金利政策を余儀なくされ、総裁も度々更迭されるなど独立性が脅かされる展開が続いてきた。結果、インフレは一段と昂進するとともにリラ相場は調整の動きを強めてインフレを一段と上振れさせる状況が続いてきた。エルカン氏の下ではこうした流れに歯止めを掛ける動きをみせ、国際金融市場においてはエルカン氏や同氏と同タイミングで財務相に就任したシムシェキ氏など『経済チーム』に対する信認が回復する動きがみられた(注2)。しかし、足下のインフレ率は中銀目標を大きく上回る推移が続いているほか、国民の間でリラへの信認が著しく低下しておりリラ安の動きに歯止めが掛からない展開をみせている上、物価高と金利高の共存が国民生活を取り巻く環境を悪化させるなど難しい状況に直面している。さらに、同国では3月末に統一地方選挙が予定されており、エルドアン政権はインフレが長期化するなかで統一地方選を意識する形で国民生活への悪影響を軽減すべく最低賃金を今年も49%と大幅に引き上げる決定を行っており、先行きにおいてもインフレが高止まりする可能性はくすぶる。よって、エルカン氏をはじめとする経済チームによる政策運営の舵取りを難しくすることが懸念された。こうしたなか、同国の一部メディアは告発記事をきっかけにエルカン氏や家族に対する批判を強める動きをみせており、その理由としてエルカン氏の父による中銀業務への関与、家族による施設の私物化といった問題を挙げた。メディアによるネガティブ・キャンペーンが広がりをみせるなか、エルカン氏は自身のSNSに中銀総裁の辞職をエルドアン大統領に申し出るとともに、その理由に「このところのメディアによる大々的なネガティブ・キャンペーンにより、私の家族、なかでも1歳半にも満たない子供が危険に晒される懸念が高まり、そうした事態を回避するため」とする考えを示している。エルカン氏の突然の辞任発表を受けて、タッグを組んできたシムシェキ財務相は「エルカン氏の決断は完全に個人的な理由に拠るものであり、この決断を尊重するとともに、これまでの功績に感謝したい」とした上で「新たな中銀総裁の下でも中期経済計画は中断することなく継続する」との声明を発表している。また、ユルマズ副大統領も自身のSNSを通じて「エルカン氏の功績に感謝する」とした上で、「エルドアン大統領が力強い政治的決断の下に公表した中期経済計画を断固として実行する」との声明を発表するなど、政策の継続性を重視する考えを示している。なお、シムシェキ氏やユルマズ氏がこうした考えを示した背景には、過去にはエルドアン大統領との対立を理由に中銀総裁が相次いで更迭される度にリラ安の動きが加速し、結果的にインフレが上振れする展開が続いてきた流れを警戒しているものと考えられる。今回のエルカン氏による辞任はあくまで『個人的理由』であるとした上で、後任総裁にはNY連銀のエコノミストやアマゾン・ドット・コムのシニアエコノミストを歴任した後の昨年7月に副総裁に就任したカラハン氏を昇格させるなど、エルカン氏同様に海外での経験が豊富な同氏を据えることにより、金融市場が懸念を強める前に『火消し』を図りたいとの思惑もうかがえる。ただし、メディアで降って湧いたエルカン氏へのネガティブ・キャンペーンを巡っては、その真偽やその狙いに様々な疑念がくすぶるなか、カラハン氏の先行きには道半ばでの退任を余儀なくされたエルカン氏が積み残した様々な難題が山積する状況にある。エルドアン大統領のみならず、多くのトルコ国民にとっても『辛抱強さ』が求められる局面が続くことは間違いないと言えよう。
注1 1月26日付レポート「トルコ中銀は利上げ打ち止めへ、難しい舵取りを迫られる局面は続く」
注2 2023年10月5日付レポート「トルコ、「シン・経済チーム」の奮闘もリラ相場が一向に改善しないのは」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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