日本株は半導体で動いている(12 月鉱工業生産)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月36,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は4月にマイナス金利を解除した後、当分の間、金利を据え置くだろう。
  • FEDは年央までに利下げ開始、FF金利は年末に4.50%(幅上限)以下への低下を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。S&P500は▲0.1%、NASDAQは▲0.8%で引け。VIXは13.3へと低下。
  • 米金利はツイスト・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.257%(▲3.1bp)へと低下。 実質金利は1.773%(▲1.1bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲30.5bpへとマイナス幅拡大。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは147後半へと上昇。コモディティはWTI原油が77.8㌦(+1.0㌦)へと上昇。銅は8615.0㌦(+57.0㌦)へと上昇。金は2031.5㌦(+6.1㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)、長短金利差(2年10年)
米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)、長短金利差(2年10年)

(%) 米国 イールドカーブ
(%) 米国 イールドカーブ

(bp) 米国 イールドカーブ(前日差)
(bp) 米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

注目点

  • 日本の12月鉱工業生産はIT関連財の在庫調整が一段と進展し、同セクターの増産局面入りが近づいたことを示し、年初来の株高を正当化した。こうした日本企業の業績拡大を裏付けるデータは決算期を目前に安心感を与える。後述するように生産予測調査はかなり弱い結果となっているが、主因は自動車の供給側要因であり、必ずしも景気の弱さを反映しているものではない。過去数年の供給制約によって潜在需要は豊富に存在しているため、時間が解決するとみられる。

  • 12月鉱工業生産は前月比+1.8%と市場予想(+2.5%)を下回ったものの、2ヶ月ぶりに増産となった。生産は5月頃から海外経済の減速が重荷となり増勢は鈍化していたが、自動車生産が回復基調を維持する中、12月は汎用・業務用機械(前月比+9.3%)、化学(+7.9%)などが増産となり、一進一退となっている。

鉱工業生産指数、生産 自動車工業
鉱工業生産指数、生産 自動車工業

鉱工業生産指数
鉱工業生産指数

生産 自動車工業
生産 自動車工業

  • 1月初旬に実施された生産予測調査に基づけば、製造工業の生産計画は1月が前月比▲6.2%、2月が+2.2%と大幅減産であった。経産省がバイアスを補正した1月の予測値は▲10.5%と極めて大きな減産見込みとなっている。主因は自動車大手の工場稼働停止(地震、品質管理等)。輸送機械工業の生産計画は1月に▲10.6%、2月に+0.8%であり、これによってサプライチェーン全体に減産が波及する形となった。もっとも、こうした特殊要因が解消すれば稼働率が高まる公算は大きい。上述のとおり新車の潜在需要はまだ豊富に存在するとみられるためだ。なお、話が逸れるが、年初来の日本の自動車株上昇の背景には、トランプ氏の大統領選勝利を見越した投資家行動があるかもしれない。仮にトランプ政権が誕生すれば、EV推進に舵を切ったバイデン政権の方針が転換される可能性がある。そうなればEVに出遅れた感のある日本勢が物色の対象になり易いと考えられる。
  • 株式市場と関連の深い電子部品・デバイス工業の生産に目を向けると、12月の生産は前月比+2.0%となり、前年比では+1.3%へとプラス圏に浮上、生産水準は明確に底打ちした。ノートPCやスマホの販売低迷を背景にシリコンサイクルはなお弱い状態にあるが、在庫調整が進展したことで製品需給は引き締まる方向にある(半導体製造装置も似た構図)。生産計画に目を向けると1月は▲3.5%、2月は+4.6%と概ね横ばいだが、それでも減産局面は終了した可能性が高い。

生産 IT関連財
生産 IT関連財

  • 電子部品・デバイス工業は12月に出荷のマイナス幅が▲1.4%と縮小し、在庫は▲25.1%と一段と減少した。これによって出荷・在庫バランス(両者の前年比差分から算出)は+23.7%と4ヶ月連続でプラス圏推移し、3ヶ月平均でも+19.0%と明確に上向いた。在庫循環図の位置取りは、左下領域(在庫減・出荷減)を右下方向(在庫減・出荷増)に進路をとっており、今後、右下領域に移行するその過程において景況感の更なる好転が期待される。

  • 長期的に電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスと日経平均株価は連動性を有してきた。株価指数において半導体を直接手掛ける企業の存在感は必ずしも大きくはないが、半導体製造装置や部材(化学品)など「広義半導体」で見ればその存在感は大きく、結果的に日本株全体のうねりを作り出すという構図が背景にある。今後ノートPC・スマホの販売低迷が長期化したり、データセンタ向け投資の抑制が続いたりして需給バランス好転が遅れる可能性はあるが、AI向け半導体の爆発的需要やコロナ初期局面にあたる2020年に購入されたPCの一部が買い替え期に差し掛かることで、新たな需要が発生すればIT関連財市況は持ち直し、日本株の更なる上昇が期待される。

電子部品・デバイス工業、電子部品・デバイス工業(前年比、%)
電子部品・デバイス工業、電子部品・デバイス工業(前年比、%)

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

電子部品・デバイス工業(前年比、%)
電子部品・デバイス工業(前年比、%)

日経平均・出荷在庫バランス
日経平均・出荷在庫バランス

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。