4月のマイナス金利解除確率は微妙に後退

藤代 宏一

大方の予想どおり日銀は金融政策の現状維持を決定すると共にフォワードガイダンスを維持した。一部の市場関係者は(4月の)マイナス金利解除に向けてその地均しを進めるべく、フォワードガイダンスの修正を予想していたが、日銀はそれらを全て残した。筆者も何らかの形でマイナス金利解除の「予告の予告」があることに身構えていた。

日本銀行は、内外の経済や金融市場を巡る不確実性がきわめて高い中、経済・物 価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくこと で、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指していく。 「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。

ここで、やや細かい点に言及すると、展望レポートの<概要>部分には変化がみられた。物価見通しを言及する段落で「消費者物価の基調的な上昇率は、マクロ的な需給ギャップがプラスに転じ、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まるもとで、見通し期間終盤にかけて『物価安定の目標』に向けて徐々に高まっていくと考えられる。こうした見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっている」と下線部分が追記された。これをマイナス金利解除の布石と受け止めるのはやや行き過ぎている印象だが、2025年度の物価見通しを引き上げた「背景説明」を明文化した意味は案外大きいかもしれない。

展望レポートの成長率・物価見通しは下記のとおり、2024年度のコア物価が引き下げられた反面、2025年度は上方修正された。2024年度の変化についてはエネルギー価格の安定や食料品価格の値上げ一服が背景にあるとみられ、日銀はこれを重く受け止めてはいないだろう。生活必需品の値上げ一服は日銀にとって寧ろ歓迎すべき事象ですらありそうだ。その分、2024年度の成長率見通しを引き上げ、2025年度の物価見通しを上方修正することでバランスをとった形と思われる。

このように日銀は物価見通しに自信を滲ませた。もっとも、今回の金融政策決定会合でフォワードガイダンスを全て維持するなどマイナス金利解除に向けた「はじめの一歩」は確認できなかった。筆者は依然として3月に予告、4月に決断という展開が最も有力であると判断しているが、その可能性は微妙に低下した印象だ。もし日銀が4月のマイナス金利解除ありきでいるならば、何らかのシグナルを今回の会合で発していたのではないか(この後の総裁会見でその可能性があるかもしれないが)。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。