米国経済マンスリー:2024年1月

~個人消費は堅調だが、雇用やISMには減速感~

前田 和馬

要旨
  • 12月の雇用者数は3か月移動平均が節目となる+20万人を3か月連続で下回るなど、雇用拡大ペースの減速が鮮明となっている。この間12月ISMは製造業・サービス業共に軟調に推移した一方、12月小売売上高は増加を示すなど個人消費は堅調さを保っている。
  • 12月CPIで総合指数が小幅に加速するなか、FRB高官は3月の利下げ開始を織り込む市場予想をけん制している。早期利下げが実現するためには、年前半のインフレトレンドが+2%近傍で推移するなど、FOMCメンバーの想定以上のインフレ減速が必要となる可能性が高い。
  • 2024年の米国経済は2023年より減速するものの景気後退は回避する、すなわちソフトランディングが大勢見通しとなっている。一方、2月に実施される雇用統計と消費者物価指数(CPI)の改定が足下の雇用・物価動向の評価を変えうる可能性に留意が必要だろう。

図表1
図表1

【経済指標】

  • 12月全米供給管理協会(ISM)景況感指数

12月ISM製造業PMIは47.4(11月:46.7)と前月から上昇した。とはいえ、好不況の節目となる50を14か月連続で下回るなど、製造業活動は低調に推移している。内訳をみると、生産が50.3(48.5)、雇用が48.1(45.8)と共に3か月振りに上昇し全体を押し上げた一方、生産活動に先行する新規受注は47.1(48.3)と2か月振りに低下し16か月連続で50を下回った。一方12月ISMサービス業PMIは50.6(52.7)と2か月振りに低下した。サービス業活動は12か月連続で50を上回ったものの、緩やかな減速が持続している。内訳をみると、雇用が43.3(50.7)と大幅に低下したほか、新規受注も52.8(55.5)と3か月振りに前月水準を下回った(詳細は「米国 製造業の緩やかな縮小継続(12月ISM製造業)」及び「米国10-12月期に需要は再鈍化(12月ISM非製造業)」)。

  • 12月雇用統計

12月雇用統計における非農業部門雇用者数は前月差+21.6万人(11月:+17.3万人)と、前月から増加ペースを拡大した。しかし、同時に公表された10月実績は-4.5万人、11月実績は-2.6万人の下方修正となった結果、3か月移動平均では+16.5万人(+18.0万人)と、節目となる+20万人を3か月連続で下回るなど雇用拡大ペースの減速が鮮明となっている。12月の雇用者数を業種別にみると、医療・社会福祉が+5.89万人(+9.60万人)、娯楽・宿泊が+4.0万人(+1.2万人)と共に雇用拡大が持続したほか、小売業が+1.74万人(-2.44万人)と前月の反動もあり2か月振りに増加した。

この間労働参加率は62.5%(11月:62.8%)と前月から低下した一方、失業率は3.7%(3.7%)と横ばい圏に留まった。失業率は依然低位に留まっているものの、一部の失業者が労働市場から退出したとみられるなど、労働需給のひっ迫に緩和の兆しが見られている。なお2019年以降の失業率を巡っては、同算定に用いられる家計調査の季節調整が洗い替えられたものの、総じて改定幅は限定的に留まった。

この間平均時給は前年比+4.1%(+4.0%)と高水準で推移した一方、週平均労働時間は-0.3%(-0.3%)と11か月連続で前年水準を下回るなど、緩やかな減少傾向が持続した。この結果労働所得(=民間雇用者数×平均労働時間×平均時給)は+5.4%(+5.4%)と、平均時給の伸びを背景に増加基調で推移している。他方CPI上昇率を控除した実質賃金は時間当たりで+0.8%(+0.9%)と8か月連続で増加した一方、週当たりでは+0.5%(+0.6%)とインフレ鈍化を背景に2か月連続で前年水準を上回った(詳細は「米国 実態は市場予想よりも強くない12月米雇用統計」)。

  • 12月消費者物価指数(CPI)

12月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.3%(11月:+0.1%)と市場予想(+0.2%)を僅かながら上回った。食品は+0.2%(+0.2%)と緩やかな上昇が続いた一方、エネルギーは+0.4%(-2.3%)とガソリン価格を中心に3か月振りに前月水準を上回った。他方食品・エネルギーを除くコアベース指数は+0.3%(+0.3%)と前月から上昇幅に変化がなかった。コアCPIの内訳を見ると、住居費が+0.5%(+0.4%)と2か月連続で騰勢を加速するなど、再加速の兆しがみられる。また、住居費を除くコアCPIは+0.2%(+0.2%)と、自動車保険や医療サービスを中心に上昇した。この間前年比でみると、CPI総合は前年比+3.4%(+3.1%)と前月から加速した一方、食品・エネルギーを除くコアCPIは+3.9%(+4.0%)と小幅に上昇幅を縮小した。先行きのCPIは家賃減速を主因に騰勢の鈍化が続く可能性が高いものの、家賃の想定以上の高止まり、及び賃金上昇を背景としたサービス価格再加速のリスクには警戒が必要だろう(詳細は「米国 CPIコアの鈍い低下が継続(12月CPI)」)。

  • 12月小売売上高

12月小売売上高は前月比+0.6%(11月:+0.3%)と好調な年末商戦を背景に2か月連続で増加した。12月小売売上高の内訳をみると、食料品が+0.2%(+0.2%)と6か月連続、衣料品が+1.5%(+1.0%)と2か月連続でそれぞれ前月水準を上回った。一方、家具は-1.0%(+2.4%)、家電は-0.3%(-1.8%)と共に減少するなど軟調に推移した。この結果、変動の激しい項目を除いたコア小売売上高(自動車・ガソリン・建設材・飲食サービスを除くベース)は+0.8%(+0.5%)と9か月連続で増加するなど、個人消費は堅調な労働所得を背景に底堅く推移している(詳細は「米国 12月小売売上高は個人消費の堅調持続を示唆 」)。

  • 12月鉱工業生産

12月鉱工業生産は前月比+0.1%(11月:+0.0%)と小幅ながら3か月振りに上昇した。この結果、10-12月期は-0.8%(7-9月期:+0.5%)と3四半期振りに低下するなど、自動車ビックスリーのストライキ(9/15-10/30)が収束した後も生産の回復ペースは鈍い。12月の内訳を見ると、鉱業が+0.9%(11月:-1.0%)と3か月振りに前月水準を上回った一方、公益は-1.0%(-0.7%)と同月の気温が中西部を中心に比較的温暖だったこともあり4か月連続で減少した。他方製造業は+0.1%(+0.2%)と2か月連続で上昇した。自動車・同部品が+1.6%(+7.4%)とストライキ収束を背景に生産正常化が続いたほか、石油・石炭製品が+2.2%(+0.0%)、食品・飲料・タバコが+0.8%(-0.5%)と非耐久財を中心に増加した。一方、機械は-1.2%(+0.6%)、電子製品・部品は-2.4%(+0.3%)と低下するなど、区々の動きを示している(詳細は「米国 自動車・ハイテク生産が下支え(12月鉱工業)」)。 

  • 12月住宅着工件数

12月住宅着工件数は年率146.0万戸(11月:152.5万戸)と4か月振りに減少した(前月比-4.3%;10月:同+10.8%)。住宅着工は中古住宅の在庫減少を背景に底打ちの兆しを示しているものの、住宅ローン金利上昇による需要抑制を主因に総じて低調に推移している。内訳をみると、戸建住宅が前月比-8.6%(11月:+15.4%)と全体を押し下げた一方、集合住宅は+8.0%(-0.2%)と緩やかに持ち直している。この間、住宅着工に先行する住宅建設許可件数は年率149.5万戸(146.7万戸)と2か月振りに増加したものの、依然停滞の域を脱していない。

【経済見通し】

10-12月期の米国経済を巡っては、1/18時点のアトランタ連銀によるGDPナウキャストが前期比年率+2.4%(7-9月期:+4.9%)を見込むなど、7-9月期より減速するものの、プラス成長で着地する可能性が高い。実質賃金の緩やかな上昇による堅調な労働所得環境、及びパンデミック時に蓄積された過剰貯蓄(23年7-9月時点でGDP比1.0-5.7%:注1)が、引き続き個人消費をけん引する見通しだ。10-12月期のコア小売売上高は前期比+1.1%(7-9月期:+1.5%)と14四半期連続で増加するなど底堅く推移している。この間、12月のミシガン消費者信頼感指数は69.7(11月:61.3)、CB消費者信頼感指数は110.7(101.0)と共に改善するなど、消費者マインドの悪化には一服感が見られている。

2024年の米国経済を巡っては、2023年より減速するものの景気後退は回避する、すなわちソフトランディングが大勢見通しとなっている。FOMCメンバーによる12月時点の経済見通しでは2024年の実質GDP成長率が+1.4%と潜在成長率(長期見通し:+1.8%)を小幅に下回る減速に留まるほか、失業率は24年10-12月期で4.1%と自然失業率(同、4.1%)と同等の着地が予想されている(民間予測[11月時点]:実質GDP成長率:+1.7%;失業率:4.2%)。コアPCEインフレ率は2024年10-12月期には前年比+2.4%(23年10-12月期:+3.2%)へと減速することが予想されており、これによる家計の実質購買力改善は消費を下支えする要因となる。また、2024年を通じて予想されるインフレ減速と複数回の利下げによる実質金利低下は、これまでの累積的な利上げによる住宅投資や設備投資への影響を軽減することが期待される。

とはいえ、2024年を通じた過剰貯蓄の取崩し、未だ影響がみられない学生ローン返済再開(2023年10月)による家計購買力の減少(詳細は9/12付「米学生ローン返済再開による個人消費への影響」)、及び2024年に集中する企業の資金調達を巡る利払い負担の上昇(米国経済マンスリー:2023 年11月)には留意が必要だろう。これらはあくまで景気減速の要因と捉えられているものの、影響が想定以上に大きい場合には景気後退を招くドライバーとなるリスクがある。ちなみにコロナ以前の過去3回の景気後退において、利上げ打ち止めから景気後退に陥るまでの期間は11-19か月であり、景気悪化時には失業率が急速に悪化する傾向にある(詳細は「米国経済マンスリー:2023 年12月」)。今次利上げ局面の終了が2023年7月と仮定すると、2024年後半以降に累積的な利上げによる設備投資や新規雇用への影響が急速に発現し、景気後退へと陥る可能性は否定できない。

特にインフレ高止まりを背景に高金利政策が想定以上に長期化するほど、こうしたリスクシナリオの蓋然性は上昇する。市場は3月の利下げ開始を織り込んでいるものの、FOMCメンバーはこうした見方をけん制しており、年前半のインフレトレンドが+2%近傍で推移しない限り、こうした市場見通しは実現しない可能性が高い(詳細は「ドットチャートと市場予想はどちらが正しい?」)。インフレが想定通りに減速するか否かを巡っても、サービスインフレに影響を与える賃金上昇率の動向、CPI上の家賃減速の持続性(注2)、及び地政学リスクの高まりによる原油価格高騰の可能性に注視が必要だろう。

また、2月の雇用統計、及び消費者物価指数(CPI)の改定が足下の雇用・物価動向の評価を変えうる可能性にも留意が必要だ。まず、1月雇用統計(2/2公表)では例年同様、失業保険の税記録データを用いて年次ベンチマーク改定が実施される。具体的には、①2023年3月における非農業部門雇用者数の水準を調整、②これと整合的になるように2022年4月~2023年2月の雇用者数の水準及び前月からの変化幅を調整、③2023年4月~10月の雇用者数を新たな開業率・廃業率の推計に基づき改定、④2023年4月~10月の雇用者数はベンチマーク改定及び新たに回収された調査票を反映する形で改定、⑤これらの結果に基づき2019年1月~2023年12月の季節調整ファクターを更新、以上が実施される(注3)。他方、CPI統計においては2/9に新たな季節調整ファクターが公表され、2019年1月から23年12月の実績値が改定される。2023年2月のCPI改定においては、22年11月の総合指数が前月比+0.2%(従来:+0.1%)、12月が+0.1%(同、-0.1%)と共に上方修正された。

こうした改定が景気・物価認識を大幅に変えうる可能性は低いものの、雇用減速感が鮮明になることを通じて早期利下げの実現性を高めるリスク、或いは新たなCPI実績がインフレ再加速の兆候を示し逆に早期の利下げ織り込みを後退させるリスクがあることには留意する必要がある。

【金融政策】

  • 1月地区連銀経済報告(1/17公表)

1月地区連銀経済報告(ベージュブック)では「(前回12月報告から)経済活動はほとんど、或いは全く変化しなかった」と評価した。消費の予想通り、もしくは予想を上回る推移は安堵感をもたらしたとし、ホリデーシーズンの衣服やおもちゃ、旅行などへの支出が増加したと指摘した。また、製造業活動がほぼすべての地区で減少した一方、今後の金利低下の見通しなどを背景に、企業が先行きの成長にポジティブな見方を持っていることが示唆された。この間、ほぼすべての地区で労働市場の緩和の兆しが示されるなか、投入コストが製造業や建設業で安定、或いは低下していることを指摘した。

図表2
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【その他】

  • 共和党アイオワ州党員集会(1/15)

2024年米国大統領選挙における共和党指名候補争いの初戦となるアイオワ州党員集会では、トランプ前大統領が51.0%の票を獲得し、事前の世論調査通り圧倒的な勝利を収めた。属性別の投票行動を見ても、トランプ氏が性別・年齢・人種を問わずに多くの支持を獲得するなど、盤石な支持基盤を示す内容となった。他方、デサンティス・フロリダ州知事は21.2%を獲得し2位につけた一方、対トランプ候補として足下で躍進していたヘイリー元米国連大使は19.1%で3位に留まった。次戦となるニューハンプシャー州予備選(1/23実施)においてもトランプ氏が圧倒的支持を保っており、共和党指名争いの最有力候補である構図に変化はない(詳細は「アイオワ州党員集会は想定内のトランプ圧勝」)。

図表3
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図表4
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図表5
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図表6
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図表7
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図表8
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図表9
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図表10
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図表11
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図表12
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図表13
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図表14
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図表15
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注:シャドーは景気後退期。FOMCメンバーと民間専門家の経済見通しはそれぞれ12月時点(括弧内は9月)と11月時点(同、8月)。失業率見通しは、FOMCメンバーが毎年4Q時点、民間専門家は2023・2024年が4Q時点、2024年以降は年間平均。
出所:米商務省、米労働省、ISM、CB、FRB、ミシガン大学、Refinitivより第一生命経済研究所作成

以上

【注釈】

  1. 過剰貯蓄の推計を巡っては、パンデミック期の貯蓄金額とパンデミック以前の貯蓄金額のトレンドとの差分を用いる方法のほか、パンデミック前後の貯蓄率の差異に可処分所得を乗ずる方法がある
    (例えば、前者はExcess No More? Dwindling Pandemic Savings | San Francisco Fed (frbsf.org)、後者はThe Fed - Accumulated Savings During the Pandemic: An International Comparison with Historical Perspective (federalreserve.gov)などを参照)。2023年7-9月期時点の過剰貯蓄残高は、2017-19年の貯蓄額のトレンドに基づくとGDP比1.0%、2017-19年の平均貯蓄率を用いる場合には同5.7%と試算される。

  2. CPI上の住居費は全体の約3分の1のウェイトを占めており、2023年3月の前年比+8.2%をピークに直近12月には+6.5%まで減速している。サンフランシスコ連銀はCPI上の住居費に先行する住宅価格や民間家賃指数を基に、住居費が2024年半ばに前年比でマイナスに転じるとの試算結果を公表している(Where Is Shelter Inflation Headed?)。

  3. Calculation : Handbook of Methods: U.S. Bureau of Labor Statistics (bls.gov)

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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