3つの「負」を前にマイナス金利解除は難しかった

藤代 宏一

日銀は金融政策の現状維持を決定すると共に声明文に記載されている将来の政策指針、いわゆるフォワードガイダンス(下記)を全て維持した。金融政策の現状維持それ自体は大方の予想通りであったが、一部の市場関係者はフォワードガイダンスの修正や「(緩和修正に関する)議長の指示」が盛り込まれることを予想していたことから、結果発表後に円安・株高が進行した。

「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点 まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。引き続き企業等の資金繰りと金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。

日銀を取り巻く内外環境はここへ来て「外」が大きく変化している。これまでYCCの運営上、最も大きな障害の一つであった米金利上昇が一服し、日本の長期金利にも低下圧力をかけている。これは為替に対して日米金利差縮小を通じた円高圧力をもたらすことから、日銀がマイナス金利解除に動く緊急性を減じる一方で、引き締め方向への政策変更を容易にすると考えられる。たとえばマイナス金利解除を強く示唆した場合など、その後の連続利上げが同時に織り込まれれば、(イールドカーブの)スティープ化圧力が増大することでYCCは制度崩壊の危険に晒されてしまう。その点において、海外金利低下は日銀の「出口戦略」を容易にする効果があるだろう。

もっとも、日銀が連続利上げに踏み切るとは考えにくい。マイナス金利解除は副作用の解消など「総合判断」で決定される可能性が高いとみているが、欧米のようなインフレ抑制を目的とする利上げが必要な環境が訪れる可能性は低い。現時点で実質賃金はマイナス圏から抜け出せず、そうした下で実質個人消費支出は減少基調にあり、その結果として内閣府が算出するGDPギャップもマイナス圏にある。このように、未だに3つの「負」を抱えている現状、そしてそれらが大幅に改善する確度の高い根拠が揃っていないことを踏まえると、日銀の正常化プロセスはマイナス金利解除を以って終了する蓋然性が高いと判断される。

藤代 宏一


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