・家賃を除くともはやデフレ気味(米CPI) ・色々と明るい日銀短観

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月36,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは2024年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.5%、NASDAQは+0.7%で引け。VIXは12.1へと低下。

  • 米金利は2年を除き金利低下。予想インフレ率(10年BEI)は2.167%(▲4.0bp)へと低下。実質金利は2.037%(+0.6bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲53.2bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは145半ばへと低下。コモディティはWTI原油が68.6㌦(▲2.7㌦)へと低下。銅は8355.0㌦(+14.0㌦)へと上昇。金は1977.8㌦(▲0.2㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

経済指標

  • 11月米CPIは前月比+0.1%、前年比+3.1%と市場予想に概ね一致。コアCPIも前月比+0.3%、前年比+4.0%と予想に一致し緩やかな鈍化傾向を確認した。瞬間風速をみてもコアCPIの3ヶ月前比年率は+3.4%、同3ヶ月平均は+3.3%と大きくみれば鈍化基調にある。家賃を除いたベースに目を向けると総合は前年比+1.4%まで減速。家賃を除いたコアも同様に減速基調が鮮明。3ヶ月前比年率では+1.5%ともはや微風程度の風速に落ち着いている。

米国 CPI
米国 CPI

米国 CPI
米国 CPI

米国 CPI
米国 CPI

米国 家賃除くコアCPI
米国 家賃除くコアCPI

注目点

  • 日銀短観(12月調査)によると業況判断DIは、大企業製造業が+12と前回調査対比3pt上昇し3回調査連続の改善となった(市場予想+10)。世界的な半導体市況の悪化がなお重荷となったものの、サプライチェーンの復旧に伴う自動車生産の回復が関連業種に波及した。大企業非製造業は+30と前回調査対比3pt改善し市場予想の+27を上回ると共に1991年以来の高水準に到達。インバウンドの本格再開を含む裁量的支出の底堅さが効いた他、企業の旺盛なDX投資等(含む生成AI関連投資)が背景にある。先行き判断DIは大企業製造業が+8、大企業非製造業は+24といずれも現況対比で慎重な見通しであった。米国経済の減速懸念が燻ぶっている他、国内のペントアップデマンド一巡が懸念されているとみられる。

日銀短観 業況判断DI(大企業)
日銀短観 業況判断DI(大企業)

  • 大企業製造業は自動車(9月調査:+15→12月調査:+28)が大幅な改善を記録。その波及効果もあって鉄鋼(+18→+23)、窯業・土石製品(+16→+21)、はん用機械(+11→+21)、金属製品(▲17→±0)、非鉄金属(▲3→+12)などが改善。また喜ばしいことに電気機械(▲2→+4)がプラス圏に浮上。IT関連財市況の最悪期脱出を印象付けた。その他では値上げ効果の浸透から食料品(+16→+17)が良好な水準を維持した。他方、化学(+3→+2)、造船・重機等(+8→+4)は低下した。製造業全体としては当面、自動車生産の回復に牽引される構図が見込まれる。問題は新車の潜在需要を消化し切るまでに半導体市況が持ち直すか否かであるが、その点において電気機械の業況回復は朗報であった。在庫調整が進展する下で新たなIT関連財需要が芽生えれば、回復のバトンは無事に引き継がれそうだ。

  • 大企業非製造業は宿泊・サービス(+44→+51)が異例の強さを記録した他、対個人サービス(+24→+28)、小売(+24→+26)、卸売(+32→+34)といった消費関連の強さが続いた。こうしたBtoC業種の強さは、実質消費支出がマイナス傾向にあるのと整合しないが、少なくとも企業景況感は改善傾向にある。値上げによって名目値の収益目標が確保できている可能性が指摘できる。この間、不動産(+37→+47)、建設(+22→+22)の強さは続き、物品賃貸(+28→+28)も高水準を維持した。企業のDX投資等に支えられ、情報サービス(+42→+43)、通信(+14→+23)は良好な水準を維持した。なお雇用人員判断DI(全規模・全産業)は▲35へと2pt低下。労働集約型のサービス業において人手不足は深刻度合いを増している。

  • TOPIX構成銘柄と属性の近い大企業全産業の業況判断DIは+21と前回調査対比4pt上昇。またTOPIXの予想EPSと密接に連動する売上高経常利益率の年度計画も9.14%へと上昇し、企業収益の更なる改善を示唆した。前回調査対比で米国経済の減速が想定以下だったことや、自動車生産の回復を起点とする生産活動の持ち直しが持続したこと、そして円安による業績嵩上げ効果が効いたとみられる。この間、企業の物価見通し(全規模・全産業)は、販売価格見通し(≒自社製品・サービスの価格設定スタンス、1年先)が物価見通し(≒日本の物価上昇率、1年先)を上回った状態が続いている。これはコロナ期前には観察されなかった傾向であり、来期も積極的な価格転嫁が続き、収益を確保する動きが続くことを示唆している。

売上高経常利益率・TOPIX予想EPS
売上高経常利益率・TOPIX予想EPS

大企業業況判断DI・TOPIX予想EPS
大企業業況判断DI・TOPIX予想EPS

売上高経常利益率・TOPIX予想EPS、大企業業況判断DI・TOPIX予想EPS
売上高経常利益率・TOPIX予想EPS、大企業業況判断DI・TOPIX予想EPS

日銀短観 企業の物価見通し(1年後)
日銀短観 企業の物価見通し(1年後)

  • なお日銀短観の調査は、前月からの変化を問うPMI等と異なり比較時点を問わない形式である。企業は回答にあたって自社の収益計画を基準にしていると考えられ、それを満たしていれば「良い」「さほど良くない」「悪い」の3択から「良い」を選択するはずである。したがって業況判断DIの改善は業績上方修正の余地と考えることができる。短観とアナリスト予想の方向感が一致するのはそうした背景があるからであろう。

藤代 宏一


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