工作機械受注が教えてくれる景況感(23 年11 月)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月36,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは2024年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.4%、NASDAQは+0.2%で引け。VIXは12.6へと上昇。
  • 米金利はツイスト・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.207%(▲2.3bp)へと低下。
    実質金利は2.031%(+2.9bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲47.9bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは146前半へと上昇。コモディティはWTI原油が71.3㌦(+0.1㌦)へと上昇。銅は8341.0㌦(▲107.5㌦)へと低下。金は1978.0㌦(▲20.3㌦)へと低下。

図表1
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図表2
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図表3
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図表4
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図表5
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注目点

  • 12月11日に発表された11月の工作機械受注統計(日本工作機械工業会)は、10月の反動もあってやや強めの反発となり、生産・投資活動サイクルの好転に期待を持たせる結果であった。11月の受注額(原数値)は1159億円、前年比伸び率(原数値)は▲13.6%とマイナス幅縮小。筆者作成の季節調整値は前月比+5.8%、1175億円と増加。3ヶ月平均値では▲1.7%と2ヶ月連続のマイナスだが、年央以降は下げ止まっている。単月の内訳は「国内向け」が季節調整済み前月比+0.5%、原数値前年比▲28.5%と弱さが残存したものの、「外需」は前月比+8.2%、前年比では▲6.0%と持ち直しの動きが強まった。

図表6
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図表7
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図表8
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図表9
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  • 日本の工作機械受注は、そのサイクルがグローバル製造業PMIやアナリストの業績予想(TOPIX予想EPS)と連動性を有する。11月グローバル製造業PMIは49.3と15ヶ月連続で50以下の領域で推移したものの、7月の48.6から底離れしつつある。ペントアップデマンドが一巡しつつある日本の息切れ感が強まり、米国も50近傍で改善が頭打ちとなったが、異例の弱さに直面していた欧州で一部に持ち直しの兆候が確認され、中国は50を回復した。この間、IT関連財の生産集積地である台湾、韓国においては回復傾向が明確化しつつある。世界的にIT関連財の在庫調整が進展していることから判断すると、来年前半までには生産活動の底打ちが期待される。また半導体不足の解消に伴う自動車生産の回復も持続が期待される。中国における生産・投資活動の調整が足かせとなる可能性には留意が必要だが、世界全体でみれば2023年対比で改善傾向を辿る可能性が高いと判断される。こうした下で日本企業の業績予想(TOPIX予想EPS)は自動車生産の回復を起点とする生産活動の持ち直しと円安に支えられマイナス圏突入を回避している。増益率拡大にはなお時間を要す見込みだが、IT関連財の回復期待がより明確化してくればその確度は高まる。

図表10
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図表11
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図表12
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  • 工作機械受注サイクルの位置取りを確認するために縦軸に受注額の水準(36ヶ月平均からの乖離)、横軸に方向感(6ヶ月前比)をとった循環図をみると、直近は左下局面(低水準・伸び率マイナス)を右方向に進路をとっている。これは受注高が(直近ピーク比)低水準で推移しているものの、減少ペースが和らいでいることを意味する。過去の経験則に従うなら今後は右方向へ推移した後、徐々に上向きの進路をとると思われる。半導体不足解消に伴う自動車生産の回復およびそれに伴う設備投資誘発が予想される中、IT関連財の在庫調整が進展するにしたがって半導体向け投資の復調が期待される。今後、米中経済が急失速しない限り「左下」方向へ逆走する展開は想像しにくくなった。株価が既に好転を先取りしている感はあるが、工作機械受注を見る限りにおいて梯子を外されるリスクは和らいでいる。

図表13
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図表14
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図表15
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藤代 宏一


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