トランプ圧倒的優位で予備選へ

~刑事裁判を抱えるなか、トランプ氏本指名への不透明感は残る~

前田 和馬

要旨
  • 2024年大統領選の共和党指名候補者が参加する第4回討論会では、対トランプ候補として躍進するヘイリー氏に攻撃が集中した。討論会後の世論調査では、2番手につけるデサンティス氏が最も高い評価を受けた一方、ヘイリー氏も良好なパフォーマンスを発揮したとの見方が強い。
  • 共和党の指名候補争いは、1/15のアイオワ州党員集会が初戦となり、その後1/23のニューハンプシャー州予備選挙へと続く。その後3/5のスーパーチューズデーでは15州の投票が同時に実施され、共和党予備選の大勢が決する可能性が高い。
  • トランプ前大統領は討論会を欠席し続けているものの、他候補に対する圧倒的なリードを保っている。とはいえ、同氏は複数の刑事裁判を抱える前代未聞の選挙戦を強いられるため、7月の共和党全国大会における大統領候補の正式指名までには依然不透明感が残る。
  • 第4回討論会レビュー:ヘイリー氏に攻撃が集中

12/6、2024年大統領選の共和党指名候補者が参加する第4回討論会がアラバマ州にて開催された(注1)。同討論会に参加したのは、2番手ながら支持率が低迷するデサンティス現フロリダ州知事(図表1)、対トランプ候補として躍進するヘイリー元米国連大使、30代起業家のラマスワミ氏、トランプ氏に批判的なクリスティー前ニュージャージー州知事の4名である。なお、第3回討論会に参加したスコット上院議員は11/12に指名候補争いからの撤退を表明している。一方、支持率で圧倒的に優位に立つトランプ前大統領は、今回を含む4回の討論会を全て欠席した。

同討論会においては、他候補からヘイリー氏への攻撃が集中した。ヘイリー氏に対して、デサンティス氏はトランスジェンダーの権利を擁護し過ぎていると批判したほか、ラマスワミ氏は大口献金者からの支持を受けていることを指摘したうえで「ヘイリーは腐敗している」と述べた。こうしたなか、ヘイリー氏は自身に対する攻撃を「注目されるのは大好き」と一蹴するなど反撃した。他方クリスティー氏はラマスワミ氏によるヘイリー氏への執拗な攻撃に苦言を呈する一方、他の3候補が副大統領候補になるためにトランプ氏への直接的な言及を避けていると指摘した。

討論会後の世論調査における「最も良いパフォーマンス」を発揮した参加者を巡っては、30%の観戦者がデサンティス氏を挙げる一方、ヘイリー氏も23%で続くなど他候補からの攻撃にも関わらず良好なパフォーマンスを発揮したとの見方が強い(注2)。なお、共和党予備選の投票にあたっての重要な論点を巡っては、有権者の52%が「インフレ対策」、41%が「移民対策」と回答するなど圧倒的な割合を占める一方、「テロや外国との対立からの安全」は27%、「政府支出の削減」は25%に留まった。

  • トランプ圧倒的優位で予備選へ突入

2024年の共和党の指名候補争いは、1/15のアイオワ州党員集会が初戦となり、その後1/23のニューハンプシャー州予備選挙へと続く(図表2)。これら両州の投票直前にはCNNが討論会を開催する予定であり(1/10にアイオワ、1/21にニューハンプシャー)、10%以上の支持率といった参加要件を満たすトランプ氏、デサンティス氏、ヘイリー氏が招待される可能性が高い。トランプ氏が予備選開始の直前になり、漸く討論会に参加するのかが注目される。なお予備選初戦となる2州においても、トランプ氏が他候補にダブルスコアをつける圧倒的なリードを守っている構図に変化はない(図表1右)。その後2月はネバダ州、ヘイリー氏の地元であるサウスカロライナ州などで投票が実施される。3/5のスーパーチューズデーでは15州の投票が同時に実施され、共和党予備選の大勢が決する可能性が高い。

民主・共和両党の候補指名争いである予備選、及びその後の大統領選本選を巡っては、事前の見通しが外れることは少なくない。例えば共に民主党予備選ではあるものの、2004年は最有力であったディーン前バーモント州知事(当時)がケリー上院議員に敗れたほか、2008年はヒラリー・クリントン上院議員が有力視されるなかでオバマ上院議員が本指名を獲得した(図表3)。

今回の共和党予備選を巡っては次の2点に留意が必要だろう。まず、トランプ氏は他候補に対する圧倒的なリードを保っており、多少の追い風がある場合においても、デサンティス氏やヘイリー氏がこうした圧倒的な劣勢を逆転する可能性は低い。支持率が低迷するクリスティー氏が今後撤退する場合、同氏の支持はヘイリー氏へと流れることが想定されるものの、このケースにおいてもトランプ氏の圧倒的優位は揺るがない。

とはいえ、トランプ前大統領は複数の刑事裁判を抱える前代未聞の選挙戦を強いられるため、7/15-18開催の共和党全国大会にて正式に大統領候補として指名される道程には依然不透明感が残る。トランプ氏はスーパーチューズデー前日の3/4には議会襲撃事件を巡る初公判(ワシントン連邦地裁)に出廷する必要があり、予備選のヤマ場となるタイミングで全米遊説する時間が限られる。その後も不倫口止め料(3/25にニューヨーク地裁)や機密文書保持(5/20にフロリダ地裁)を巡る初公判が続くなど、刑事裁判と選挙戦の同時進行が資金的・時間的な制約をトランプ氏に課すことになるだろう。トランプ氏が有罪判決を受ける場合には共和党員の45%が同氏に投票しないとの調査結果があり(注3)、指名候補争いの大勢が決した後においても、共和党内においてトランプ氏が大統領候補として妥当であるかの議論が刑事裁判の展開次第で燻り続ける可能性がある。  

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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