第二の力が衰えてきた米国

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月36,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは2024年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。S&P500は▲0.1%、NASDAQは+0.3%で引け。VIXは12.9へと低下。

  • 米金利はブル・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.199%(▲1.9bp)へと低下。実質金利は1.978%(▲7.3bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲41.4bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はJPYが最強。USD/JPYは147前半で一進一退。コモディティはWTI原油が72.3㌦(▲0.7㌦)へと低下。銅は8334.5㌦(▲108.5㌦)へと低下。金は2018.5㌦(▲5.6㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

注目点

  • 10月JOLTS求人件数は前月比▲6.6%、873万件と大幅減少。2022年3月に1200万件程度に到達した後はほぼ一貫して漸減している。移民流入にも助けられ労働参加率が上昇し、企業の人手不足感は和らぎつつある。失業者数に対する求人件数の割合も1.34倍へと低下。依然コロナ期前の水準を上回っているとはいえ、一人の求職者を巡って複数の企業が争奪戦を繰り広げるような状況にはない。

JOLTS求人件数
JOLTS求人件数

失業者/求人件数
失業者/求人件数

JOLTS求人件数、失業者/求人件数
JOLTS求人件数、失業者/求人件数

  • また転職活動の活発度合いを映し出す自発的離職率も低下。10月単月で2.31%、3ヶ月平均では2.33%となり2019年水準に回帰した。極度の人手不足が生じたコロナ期において転職市場では求職者に高いプレミアムが付けられたことから、転職は多くの人にとって賃金上昇の機会となった。しかしながら、労働コスト増加に直面した企業が一段のコスト増に対して慎重姿勢を強めた結果、プレミアムは縮小し自発的な離職は労働者にとって必ずしも魅力的な選択肢ではなくなりつつある。企業側の姿勢をNFIB中小企業調査で確認すると人件費計画はやや上向きつつあるものの水準はコロナ期前のピークと同等、雇用計画はコロナ期前の水準を下回って推移している。求職者側の肌感覚を探る観点から消費者信頼感調査の雇用判断DIをみても、やはり低下基調にあり、採用市場における労働者優位の構図が大きく変化している様子が窺える。

自発的離職率
自発的離職率

NFIB中小企業調査
NFIB中小企業調査

自発的離職率、NFIB中小企業調査
自発的離職率、NFIB中小企業調査

CB消費者信頼感指数(雇用判断)
CB消費者信頼感指数(雇用判断)

  • これらを踏まえると、平均時給は今後鈍化する公算が大きい。Fedを含む一般的な中央銀行がインフレの波及経路として賃金を重要視していることを踏まえると、賃金インフレ沈静化の兆候が強まっていることの意味は大きい。なお金曜発表の雇用統計において平均時給は前月比+0.3%、前年比+4.0%が見込まれている。仮に前月比の伸び率が+0.30%だとすれば3ヶ月前比年率の伸びは+3.5%程度となり、2018-19年に観察された速度に等しくなる。このあたりが注目されれば、賃金インフレ終息がかなり近づいていることが認識され、Fedの方向転換がより強く意識されるのではないか。日本流に言えば「第二の力」が弱る中で基調的なインフレ率が低下している印象だ。こうして考えると、やはり2024年のリスクはFedの利下げが遅れる或いは不十分となることで景気後退を回避できなくなることであろう。

米国 平均時給
米国 平均時給

藤代 宏一


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