都区部版・日銀基調的インフレ率の試算(2023/11)

~強まるピークアウト感~

星野 卓也

要旨
  • 本日公表された11月都区部CPIを用いて、日銀が全国CPIをもとに公表している刈込平均値・加重中央値・最頻値を試算した。11月も3指標すべてが伸び率低下。ピークアウトの様相。日銀の10月全国CPIでは加重平均値が加速したが、都区部CPIの動向に鑑みるとこちらも先行きピークアウトに向かうと見込む。
目次

都区部版の3指標はいずれも伸び率低下

以前のレポート(末尾の参考文献参照)で試算した東京都区部版の基調的インフレ率3指標について、本日公表の11月都区部CPIを用いて計算した。刈込平均値(全国ウェイト換算)は10月:+2.9%→11月:+2.6%、加重中央値(全国ウェイト換算)は10月:+1.1%→11月:+1.0%、最頻値は10月:2.9%→11月:+2.8%となった(いずれも前年比)。3指標の伸び率はいずれも低下しており、ピークアウト感が強まっている。

10月全国CPIを用いた日銀試算値は、刈込平均・最頻値の伸び率が低下し、筆者試算の都区部版と同様の動きとなる一方、加重平均値は都区部の動きに反して上昇率が拡大した。都区部・加重中央値・全国ウェイト版の数字は全国版の動きに近づけるため、都区部CPIの個別品目の上昇率と全国CPIの品目ウェイトを用いて計算している。それでも乖離が発生するのは、都区部と全国で上昇する品目に差異が生じていることを意味する。10月について、「全国CPIでは2.2%(10月の全国CPI加重中央値)よりも上昇しているが、都区部CPIでは2.2%よりも上昇していない品目」を抽出してみた。ウェイトの大きいものをピックアップしていくと、水道料、焼肉(外食)、外壁塗装費、ルームエアコン、自動車タイヤなどが挙がった。東京と地方における人手不足度合いの違い、地方がより高コストになりやすい運送費上昇などの影響を示唆する並びである。

都区部と全国版の加重中央値の乖離は一定程度残存する可能性があるものの、都区部版の加重中央値は明確にピークアウト方向にあり、方向感は近づいていくだろう。全国CPIの加重中央値も伸び率を次第に低下させていく可能性が高いとみる。

先般公表のGDP統計でも内需の停滞が確認されたが、物価上昇に賃金上昇がキャッチアップできておらず、物価上昇圧力が次第に弱まっているものと考えられる。金融市場ではマイナス金利の早期解除観測も根強いが、肝心の景気に陰りがみられるなかで金融政策の正常化が順当に進むかどうかはまだ予断を許さない状況である。

資料1
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資料2
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星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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