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クリスマス食材にもインフレの影

~スイーツの2桁上昇は1975年以来~

熊野 英生

要旨

インフレの脅威は、台所の食材だけではなく、スイーツにまで及んでいる。消費者物価では、2023年4~10月の菓子類=スイーツの物価上昇率が2桁になっている。1975年以来の2桁の上昇率だ。砂糖、牛乳、卵が軒並み上がっていることが、加工品であるスイーツを直撃した格好だ。

スイーツ原料高騰

12月になると、クリスマス商戦が意識されるのは、日米に共通する動きである。日本では、冬季賞与が増加する予想も多い。自ずと、商業販売の高い伸びが期待される。しかし、それに水を差すのが物価高騰である。昨年12月の消費者物価・総合の前年比は4.0%だった。今年12月も3%台の高い伸びが予想され、それが実質消費を抑制する可能性がある。今年は物価高騰の2巡目になり、その重みが強く意識される。

本稿では、物価そのものではなく、季節的に注目されるクリスマス食材に注目してみた。参考にするのは主に総務省「消費者物価」である。直近の2023年10月のデータでは、菓子類=スイーツの上昇率が高止まりしている。その前年比は、2023年4月以降は2桁になり、8月11.7%、9月11.6%、10月10.5%と高い伸びが続いている。この菓子類が2桁の上昇率になるのは、1975年以来のことだ(図表1、2023年8月の11.7%が1976年以降でピーク)。スイーツ高騰は、過去48年間で起こったことがないインフレに悩まされている。

図表1
図表1

実質消費もインフレのせいで落ち込んでいる。総務省「家計調査」の菓子類の実質消費の伸び率は、2023年2月まではプラスと他品目よりも堅調だったのが、3月以降はマイナスに転じることも多くなった(図表2)。さすがに2桁の物価高騰には耐えられず、実質消費が下がっているのだ。

図表2
図表2

主なスイーツのうち上昇が目立つ洋菓子などの品目の前年比をピックアップすると、プリン35.8%、ゼリー13.3%、カステラ12.3%、アイスクリーム12.1%、キャンディ9.7%、シュークリーム9.1%、チョコレート7.4%、ロールケーキ7.0%、ケーキ6.1%となっている(図表3)。こうしたスイーツの価格高騰は、原料となっている砂糖、卵、牛乳、バター、小麦のコスト上昇が強く影響している(図表4)。消費者物価の中でみても、2023年10月の前年比は、砂糖16.4%、卵28.3%、牛乳19.8%、バター13.0%と際立って高い。プリンの原料は、砂糖と卵と牛乳の3つだけだから、自ずと価格は急上昇する。特に、砂糖の高騰は、甘みのある食品全般への波及が大きい。砂糖は、①円安による輸入物価上昇、②異常気象で海外生産地の不作が起こっていること、③原油上昇で海外生産地でさとうきびのバイオエタノールへの転用が進んだことなどが挙げられる。2021年産の砂糖自給率は44%で決して高いとは言えない。輸入依存のため、コスト増が起こる。

図表3
図表3

図表4
図表4

卵は、2022年の鳥インフルエンザによる供給能力の低下で、2023年も高値が続いている。今年も全国で鳥インフルエンザが目立ち始めているので、これは尾を引く可能性を感じる。牛乳は、乳牛の飼料高騰や電気代の上昇がコストアップの原因になっている。12月からは、バターなど乳製品の小売価格がさらに上昇することが決まっている。

食料品は、在庫として保存しにくく、コスト上昇が製品価格に反映されやすい。たとえ国内自給率が高く、輸入依存度が低い品目でも、国内生産者がデフレ時代に利益を圧縮されてきたので、事業維持のためにコスト分を値上げをせざるを得ないという事情もある。

スイーツ以外の冬食材も高騰

すでに、食料品の価格上昇は、2021年9月から2年間以上も続いている。エンゲル係数が上昇するが、これは専らコスト高騰が原因であり、食料品消費は実質ベース(=数量)はずっとマイナスである。

食料品の価格上昇を調べると、クリスマス食材に関係するものが意外なほどに多い。冬に消費されやすい酒・飲料や肉類なども上がっている(図表5)。例えば、家庭によってはクリスマスや年末にパーティを開くところもあるだろう。そこで提供されるピザ、フライドチキン、ドーナツなどの価格も軒並み高い。2023年10月の価格の前年比上昇率は、宅配ピザが12.4%、フライドチキンが11.5%、ドーナツが9.0%と高い。パート・アルバイトの時給も上がっているので、外食サービスにも価格押し上げの圧力が強いのだろう。

図表5
図表5

消費者物価の内訳では、このところ、頻繁に購入する品目の上昇率が高い(2023年10月の前年比8.3%)。消費者は、別に消費者物価の統計を見ながらインフレ実感を意識している訳ではなく、スーパーの店頭でよく買うものの価格が上がっていることで、インフレへの嫌悪感を覚えている。スーパーの店頭に置いてある食材は、消費者物価のカテゴリーでは、購入頻度が高いものに分類されることが多い。

本稿で注目しているクリスマス食材の価格上昇も、消費者の痛みにつながりやすい点で、マインドにも影を落とすだろう。せっかく買いに行っても割高であると、消費全般で別に節約をしなければいけないと消費者に思わせる。

子供のプレゼントも上がる

クリスマスと言えば、子供のプレゼントも購入しなくてはいけない。食料品以外の物品・サービスの価格変動を調べると、消費者物価の平均値(2023年10月上昇率3.3%)を超えて上昇しているものが少なくなかった。子供用の下着・靴は特に高く、文房具も前年比8.3%であった(図表6)。玩具、運動用具類、月謝は上昇率が相対的に小さかった。総じて、クリスマス・プレゼントは高いと感じられる。

図表6
図表6

最も高価な贈り物は、家族旅行をプレゼントすることだろう。10月の宿泊料は前年比42.6%の上昇と劇的に上がっている。家族旅行の宿泊では、昨年10-12月は全国旅行支援が使えたので2割引きだったが、今年はそれが使えない分、著しく割高になる。

こうした家族で楽しむための費用高騰は、回り回って、子育てコストの上昇としても意識されるだろう。政府は、少子化化対策のために各種給付金を用意して、経済面から支援を試みている。しかし、そうした経済支援だけでは、今後、年々上がり続ける家族維持のコストはとてもまかない切れないだろう。

政府がすべき政策対応は、もっと若年・中堅層の給与水準を引き上げることだろう。家族を増やしてもそのコストを十分にまかなえるように、給与水準を大幅に引き上げることが、優先して目指すべき政策だと岸田政権は考えてほしい。

熊野 英生


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熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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