わかりやすい潮目の変化 Fed の利上げ終了に自信を深めた

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月36,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは2024年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.1%、NASDAQは+0.3%で引け。VIXは12.7へと上昇。

  • 米金利はブル・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.236%(+0.6bp)へと上昇。実質金利は2.099%(▲7.7bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲41.8bpへとマイナス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは147半ばへと下落。コモディティはWTI原油が76.4㌦(+1.6㌦)へと上昇。銅は8473.0㌦(+109.0㌦)へと上昇。金は2040.0㌦(+27.6㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

経済指標

  • 11月CB消費者信頼感指数は102.0へと10月から2.9pt改善。現況(138.6→138.2)が小幅に低下した反面、期待(72.7→77.8)が大きく改善した。雇用統計の先行指標として有用な雇用判断DIは+23.9と概ね横ばい。コロナ期前を下回る水準で推移しており、求職者優位の状況が終焉したことを示唆する。

CB消費者信頼感指数
CB消費者信頼感指数

CB消費者信頼感指数(雇用判断)
CB消費者信頼感指数(雇用判断)

CB消費者信頼感指数、CB消費者信頼感指数(雇用判断)
CB消費者信頼感指数、CB消費者信頼感指数(雇用判断)

  • 9月ケース・シラー住宅価格指数は前月比+0.67%、前年比+3.92%であった。前年比では加速傾向にあるものの、瞬間風速を示す3ヶ月前比年率では+10.0%近傍で安定の兆しが窺える。CPI家賃は、向こう1年程度伸び率を縮小した後、コロナ期前の水準かそれをやや下回る水準で推移しよう。

ケース・シラー住宅価格指数
ケース・シラー住宅価格指数

ケース・シラー住宅価格指数・CPI家賃
ケース・シラー住宅価格指数・CPI家賃

ケース・シラー住宅価格指数・CPI家賃
ケース・シラー住宅価格指数・CPI家賃

注目点

  • 筆者の予想外にFed高官、それもタカ派として知られているウォラー理事からハト派な見解が示された。11月28日の講演でウォラー理事は「FRBの目標であるインフレ率2%への回帰には、現在の金利水準が適切だとますます確信している」として利上げ終了の意向を示した。これは7月の利上げが最後になったとの金融市場参加者(含む筆者)の認識を追認するものであろう。利上げ打ち止めを示唆すること自体にさほど意外感はないが、長期金利が低下基調を強めている現在の状況を踏まえれば、ハト派な印象が強い。

  • 筆者は11月入り後の長期金利低下を踏まえ、12月FOMCに向けて、行き過ぎた利下げの織り込みを抑制する観点からタカ派的な発言が多くなると予想してきた。しかしながら、ウォラー理事は長期金利の低下を静観したように映る。また同じくタカ派で知られるボウマン理事も「インフレ減速が停滞すれば利上げを支持する意向は変わらない」としつつも、12月FOMCにおける利上げは不要であるとの認識を示した。Fed高官が、金融政策の軸足を「インフレ退治」から「景気後退の積極的な回避」に移しつつある様子が窺える。

  • 特に市場参加者の驚きを誘ったのは、やや具体的な条件と共に利下げの可能性について言及したこと。ウォラー理事は「標準的なテイラールールに基づけば、あと数ヶ月、3ヶ月か4ヶ月か5ヶ月か分からないが、ディスインフレが続き、インフレ率が本当に低下方向に向かっていると確信が持てれば、景気回復などとは無関係に、インフレ率が低下したという理由のみで政策金利を引き下げ始めることができる」とした。インフレ次第で年央の利下げもあり得ると読める。

  • 既往の金融引き締め効果もあって失業率が小幅に上昇し、賃金インフレの脅威が和らぐ中、このままインフレ率が低下基調を辿れば、2024年後半の利下げは蓋然性を増してくる。12月FOMCでパウエル議長が「(11月入り後の)長期金利低下が利下げを代行してしまった」などと金利低下を牽制すれば利下げ予想は修正を迫られるかもしれないが、ウォラー理事の発言から判断すると、そうしたタカ派発言が飛び出す可能性は低下した印象だ。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。