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オランダにも極右政権誕生か?

~総選挙でEU懐疑主義の極右が第一党に~

田中 理

要旨
  • オランダ総選挙は反移民や同国のEU離脱を訴える極右政党・自由党が最多票を獲得した。自由党を阻止する連立政権を発足するには、第2党以下の4党以上が総結集しなければならない。中道右派の現与党や新党と連立政権を発足する可能性がある。オランダのルッテ現首相はEUの国家リーダーで最も在位期間が長く、加盟国間の意見調整で重要な役割を果たしてきた。オランダでEUに懐疑的な政権が誕生すれば、EU内の意見集約がこれまで以上に困難となる恐れが高まる。来年央の欧州議会選挙での右派ポピュリストの勢力拡大も不安材料となる。

22日に投票が行われたオランダ総選挙(定数150)では、移民流入阻止やオランダのEU離脱を訴える極右政党・自由党(PVV)が最多票を獲得し、国内外に激震が走った。同党の獲得議席は37議席と過半数に届かなかったが、第二党以下を大きく引き離し、政権発足に向けた連立協議の核となることは間違いない。欧州委員会で気候変動関連委員と上級副委員長を務めたティメルマンス氏が率いる緑の党と労働党の合同会派(GL-PvdA)が25議席、これまで政権を率いてきた中道右派の自由民主国民党(VVD)が24議席、キリスト教民主同盟(CDA)出身のオムジヒト氏が旗揚げした中道右派の新党・新社会契約(NSC)が20議席で続いている。残りの政党の獲得議席は何れも10未満で、15政党が議席を分け合った(図表1)。今回の総選挙は、VVDのルッテ首相が率いる連立政権が移民政策の厳格化を目指したところ、これに反対した与党の一角が連立を離脱したことで必要となった。過去12年にわたってオランダ首相として国内外でリーダーシップを発揮してきたルッテ氏が首相辞任と政界引退を発表し、新たなオランダのリーダーを決める選挙でもあった。

事前の世論調査では、VVD、GL-PvdA、PVV、NSCの4党が接戦を繰り広げ、20議席台後半の議席を分け合うことが予想されていた。だが、結果はPVVが事前の世論調査を大きく上回る支持を獲得し、頭一つ抜け出た。2021年の前回総選挙で、極右政党の民主フォーラム(FvD)や正しい答え2021(JA21)を支持した有権者に加えて、連立政権を率いた中道右派のVDAやCDA、連立に加わった中道政党・民主66(D66)、共産党の流れを汲む左派政党・社会党(SP)などを支持した有権者がPVV支持に回った(図表2)。

PVVを率いるウィルデルス党首は、今回の総選挙でモスク廃止など反イスラム的な主張を和らげているが、オランダのEU離脱などEUに懐疑的な主張を繰り返している。移民政策の厳格化を主張するVVDとNSCの3党の合計議席は81議席と過半数(76議席)を上回る。VVDを率いるイェジルゲス司法相とNSCのオムジヒト党首は、ウィルデルス氏の極端な主張を牽制するが、PVVとの連立の可能性を完全には排除していない。最多票を獲得したPVVを排除する形で他党が連立政権を発足するには、第二党以下のGL-PvdA、VVD、NSC、D66の4党や、GL-PvdA、VVD、NSCに2党以上の小政党が加わり、連立を組む必要がある。したがって、今後のシナリオとしては、①PVV、VVD,NSCの右派3党による連立政権が誕生する、②PVVとNSCが非多数派政権を樹立する、③GL-PvdA、VVD、NSCを中心に4党以上が結集し、PVV阻止の大連立政権を発足する、⓸何れの連立協議もまとまらずに再選挙となる―ことが考えられる。

10月のポーランド総選挙でリベラル派勢力がEUに懐疑的な保守系与党・法と正義を破り、EU政界に安心感が広がったのも束の間、EU内でドイツ、フランス、イタリア、スペインに次ぐ経済規模を誇るオランダでEUに懐疑的な政権が誕生する恐れがある。9月のスロバキア総選挙では、ウクライナ支援に反対する左派系のEU懐疑主義政党が主導する連立政権が誕生した。オランダは北部欧州諸国の代表国であるばかりか、ドイツのメルケル首相退陣後、ルッテ首相はEUの国家リーダーで最も在任期間が長く、加盟国間の意見調整で仲介役を務める機会も少なくなかった。そのオランダでEUに懐疑的な政権が誕生すれば、今後のEU内の意見集約がこれまで以上に困難となる恐れが高まる。また、来年6月の欧州議会選挙や来年秋のドイツの州議会選挙での右派ポピュリスト勢力の更なる躍進に不安を抱かせる。

図表1
図表1

図表2
図表2

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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