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英スナク首相が減税方針を明言

~トラス減税の二の舞は避けたい~

田中 理

要旨
  • 英国のスナク首相は22日の秋季予算演説で減税を盛り込む方針を固めた。企業の投資減税や就労支援に関連した税制変更が予想されるが、来春の春季予算演説を待たずに、国民保険料や個人の所得税率の引き下げに踏み切る可能性もある。来年の総選挙に向けて劣勢が続く与党・保守党内からは減税を求める声が浮上していた。今回の減税と来春の追加減税で、景気回復を後押しし、低迷する保守党の支持率回復を目指している。

英国のスナク首相は20日の議会演説で、「インフレ率が半減し、成長率が高まり、歳入が増加した今、我々は減税に目を向けることができる段階に入った」と発言、22日の秋季予算演説で減税を発表することを示唆した。秋季予算演説では、減税策のほか、仕事を探さない失業保険受給者への罰則、病気休職要件の強化など、就労へのインセンティブを高める政策が盛り込まれる模様だ。

財源を伴わない大型減税で金融市場に混乱をもたらしたトラス前首相の昨年の失敗への反省から、首相は「健全財政を実現するため、財政ルールと予算責任局(OBR)による独立した財政予測に基づき、真摯で責任ある方法で減税を行う。一度に全てを行うことはできない。規律が必要なうえ、優先順位をつける必要がある」と説明した。来年秋の総選挙開催が有力視されるなか、今回の秋季予算演説と来年春の春季予算演説で減税策を発表し、景気回復を後押しするとともに、低迷する政権の支持率回復を目指している。

世論調査で野党・労働党に大幅なリードを許す与党・保守党内からは、減税を求める声が相次いでいた。13日のブラヴァマン内相の解任は、閣内から減税を主張する党内強硬右派を排除することにつながり、減税発表には内相解任後の党内融和の側面もある。スナク首相は、まずインフレを抑制したうえで、次に減税を行う自らの政策アプローチを、サッチャー元首相に倣ったものだと説明している。また、首相は労働党が掲げる大規模な環境投資計画がトラス減税と同様の事態を引き起こすと警告し、健全財政をアピールし、労働党への攻撃材料とした。

足許の英国景気は低迷が続いているものの、エネルギー価格の押し上げが一服し、高止まりしている物価にピークアウトの兆しが広がっている(図)。物価沈静化と賃上げによる家計の実質購買力の回復、企業の先行き不透明感の後退が、緩やかな景気拡大を後押しする公算が大きい。今回の減税策発表で保守党の支持率の落ち込みに歯止めを掛け、有権者が景気回復を実感し、5月の統一地方選前の来春の追加減税発表でさらに追い上げ、秋の総選挙に臨むのがスナク首相が描く再選プランだろう。

だが、トラス減税の失敗もあり、大規模な減税を行うことは難しい。OBRの財政予測によれば、持続的なインフレが税収増につながったことから、250億ポンドほどの財政余地があるとされる。現地メディアでは、今回は物価高を招かず経済成長を促進する減税措置を優先し、事業税の投資減税や労働者支援に関連した税制変更などが検討されているとされ、国民保険料や個人の所得税率の引き下げもこの段階で盛り込まれる可能性があるが、相続税率の引き下げは来春の追加減税に持ち越される公算が大きい。

図表1
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以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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