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ドイツ憲法裁が政府の予算調整措置に違憲判決

~連立政権内の新たな不協和音の火種に~

田中 理

要旨
  • ドイツの憲法裁判所は、パンデミック関連予算を気候変動基金に振り替える2021年末の予算調整措置に違憲判決を下した。連立政権が予定している気候変動対策を実施するには、増税などを通じて新たな歳入を確保するか、別の予算を削減する必要がある。財政資金の確保を巡って、連立政権内の不協和音が高まりかねない。

ドイツの憲法裁判所は15日、パンデミック危機対策で準備した財政資金の未利用分600億ユーロを気候変動基金(KTF)の財源に振り替える2021年末の予算調整措置に対して違憲判決を下した。KTFは通常の国家予算とは別の特別会計で、グリーン技術の開発支援や老朽化した住宅・暖房システムの改修など、連邦政府や州政府の気候変動対策に資金を提供する。パンデミック対策用の財政資金をKTFに充当することが可能となったのは、当時、政府債務をGDPの0.35%未満に制限する基本法(憲法)上の借り入れ制限(債務ブレーキ)が緊急時の特例として一時停止されていたためだ。600億ユーロの財政資金は予算調整措置が行われた年度の財政赤字として計上され、実際の支出が行われるタイミングでは財政赤字とならない。

2025年の連邦議会選挙での政権奪還を目指す最大野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の議員は、連立政権による予算調整措置が憲法上認められていない財政運営の余地を与え、将来の危機時の政府債務の無秩序な膨張につながるとして、憲法裁判所に提訴していた。連立政権の予算調整措置が違憲とされたことで、KTFは最大で600億ユーロの資金不足に陥る。

リントナー財務相は、憲法裁判所が違憲判決を下した場合も「プランB」があるとしているが、その具体的な中身については明らかにしていない。財務相は増税による新たな歳入確保や債務ブレーキからの逸脱を否定しているため、KTFを通じた気候変動対策に財政資金を振り向けるには、他の予算を削る必要がある。議会では現在、来年度予算案に関する審議を行っており、どの予算を削減するかを巡って、連立政権内の不協和音が高まりかねない。2024年についてはKTFの積立金(700億ユーロあるとされる)を取り崩すことで、ある程度の予算規模を確保することができそうだが、2025年以降の気候変動関連予算が不足する。歳出削減は低迷する景気を更に下押しする。

ショルツ首相が率いる連立政権は、二大政党の一角である中道左派の社会民主党(SPD)、環境政党・緑の党(Grüne)、リベラル政党・自由民主党(FDP)の3党で構成される。政権発足後の世論調査で3党は何れも支持を落としており、党勢回復に向けて自党の有権者に評価される政策を打ちたい。SPDは増額した国防予算の維持と福祉予算の確保を目指し、緑の党は気候変動予算の削減を阻止しようとするだろう。リントナー財務相が率いるFDPは、増税に反対するとともに、財政規律を重視する。中長期的には債務ブレーキの見直しも検討課題となりそうだ。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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