インフレ退治は最後の仕上げ段階に(10月米CPI)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは2024年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+1.9%、NASDAQは+2.4%で引け。VIXは14.2へと低下。

  • 米金利はカーブ全般で金利低下。予想インフレ率(10年BEI)は2.294%(▲4.0bp)へと低下。実質金利は2.167%(▲15.3bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲39.1bpへとマイナス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは150前半へと低下。コモディティはWTI原油が78.3㌦(±0.0㌦)。銅は8235.0㌦(+68.0㌦)へと上昇。金は1966.5㌦(+16.3㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

注目点

  • 10月米CPIはインフレ沈静化の進展を示し、Fedの利上げがもはや不要であることを確認させる結果であった。コアCPIが年率換算で+2.75%まで減速したことを踏まえると、追加的な金融引き締めを講じる余地に乏しい。利上げを見送った11月FOMCに続き、12月も据え置きとなり、そのまま5.50(誘導目標レンジ上限値)がターミナルレートになるだろう。FF金利先物から逆算すると、市場参加者はもはや利上げを予想しておらず、5月か6月FOMCまでに利下げに転じると見込んでいる。

  • 総合CPIは前月比+0.0%、前年比+3.2%であった。前月比、前年比ともに予想を下振れた。エネルギーは前月比▲2.5%と5ヶ月ぶりに低下し、前年比▲4.5%に下落幅拡大。食料は+0.3%、前年比+3.3%と落ち着きがみられている。コアCPIは前月比+0.2%、前年比+4.0%と予想を下回った。小数点2桁ベースの前月比伸び率は+0.22%まで減速し年率換算では+2.75%となった。3ヶ月前比年率では+3.4%、その3ヶ月平均値は+3.0%で安定している。コアCPIのトレンドを決める労働コスト(≒平均時給)が低下基調にあり、労働市場発のインフレ圧力が後退している現状を踏まえると、先行きも更なる減速が期待される。

米国 CPI
米国 CPI

米国 コアCPI
米国 コアCPI

米国 CPI、米国 コアCPI
米国 CPI、米国 コアCPI

  • コアCPIを「財」と「サービス」に分解すると、コア財は前月比▲0.1%、前年比+0.1%であった。サプライチェーンが概ね修復し新車の供給が増加基調にある中、中古車価格が前月比▲0.8%と5ヶ月連続で低下し、関連指標のマンハイム中古車価格指数と概ね整合的な姿になった。コアサービスは前月比+0.3%、前年比+5.5%となり前年比上昇率は9月から減速した。CPI全体のうち3割程度の比重を有する家賃は前月比+0.3%に減速、前年比では+6.9%に伸び率縮小。CPI全体を押し上げる構図(品目別の寄与度は最大)が続いたものの、前年比伸び率は2023年5月を頂点に明確な低下を遂げている。リアルタイムの家賃を捕捉するケース・シラー住宅価格やZillow指数が明確にピークアウトする中、それらに対してCPIで計測される家賃が1年程度の遅効性を有することを踏まえれば、当面のCPI家賃は上昇鈍化が既定路線。この間、家賃を除いたコアCPIは前月比+0.1%、前年比+2.0%まで減速していることに鑑みれば、インフレ沈静化のプロセスが最終段階に入ったと判断するのが妥当だろう。

米国 CPI
米国 CPI

米国 CPI
米国 CPI

米国 CPI
米国 CPI

  • ここで、労働コスト増加を起点とするインフレがどう終息していくのかを見極めるためにNFIB中小企業調査に注目すると、10月は雇用計画が低下基調を維持したものの、人件費計画は上昇に転じ、設備投資計画は改善が一服している。大きく見れば、労働コスト増加に歯止めをかけたい企業が省力化によって収益を確保しようとする意図が伝わってくるが、人件費計画の反転はやや不気味な兆候として認識しておくべだろう。自発的離職率が低下するなど、労働者が待遇改善を要求する動きは落ち着きがみられているものの、ストライキの多発(自動車、映画、飲食)など生活苦を理由にした賃上げ要求はなお活発であり、賃金インフレ再燃の火種は残存している。

NFIB中小企業調査
NFIB中小企業調査

  • こうした点を踏まえると、Fedが早期(2024年前半)の利下げに踏み切る可能性は低い。また9月FOMCから10月下旬にかけて「Fedの利上げを肩代わりした」とされる長期金利の上昇は一服しており、この点もFedが引き締めバイアスを維持する理由になろう。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。