工作機械受注が教えてくれる景況感(2023 年10 月)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは2024年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。S&P500は▲0.1%、NASDAQは▲0.2%で引け。VIXは14.8へと上昇。
  • 米金利はブル・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.334%(▲0.8bp)へと低下。 実質金利は2.320%(▲0.1bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲39.9bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは151半ばへと上昇。コモディティはWTI原油が78.3㌦(+1.1㌦)へと上昇。銅は8167.0㌦(+131.5㌦)へと上昇。金は1950.2㌦(+12.5㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)、長短金利差(2年10年)
米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)、長短金利差(2年10年)

(%) 米国 イールドカーブ
(%) 米国 イールドカーブ

(bp) 米国 イールドカーブ(前日差)
(bp) 米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

経済指標

  • NY連銀調査によると消費者の予想インフレ率は10月に小幅低下。1年先は+3.57%(9月+3.67%)へと低下、3年先は+3.00%で不変、5年先は+2.72%(9月+2.84%)へと低下した。既発表の11月ミシガン大学調査では1年先が+4.4%、5-10年先も+3.2%へと上昇していたためインフレ再燃観測が高まっていたが、NY連銀調査における3年、5年予想インフレ率の安定は消費者の間で高インフレが続くとの予想が定着していないことを示したという点で朗報であった。

予想インフレ率(NY連銀調査)、予想インフレ率(ミシガン大学調査)
予想インフレ率(NY連銀調査)、予想インフレ率(ミシガン大学調査)

予想インフレ率(NY連銀調査)
予想インフレ率(NY連銀調査)

予想インフレ率(ミシガン大学調査)
予想インフレ率(ミシガン大学調査)

注目点

  • 11月13日に発表された10月の工作機械受注統計(日本工作機械工業会)は、9月の反動もあってやや失望的だったが、均してみれば生産・投資活動サイクルの好転に期待を持たせる結果であった。10月の受注額(原数値)は1120億円、前年比伸び率(原数値)は▲20.6%とマイナス幅拡大。筆者作成の季節調整値は前月比▲12.9%、1109億円と減少し、3ヶ月平均値でみても▲1.6%とマイナスに転じた。単月の内訳は「国内向け」が季節調整済み前月比▲15.0%、原数値前年比▲24.5%と弱さが残存し、「外需」は前月比▲12.6%、前年比では▲18.8%となり回復が一筋縄ではいかないことを示した。

工作機械受注
工作機械受注

(億円)工作機械受注
(億円)工作機械受注

(前年比、%)工作機械受注
(前年比、%)工作機械受注

  • 日本の工作機械受注は、そのサイクルがグローバル製造業PMIやアナリストの業績予想(TOPIX予想EPS)と連動性を有する。10月グローバル製造業PMIは48.8と14ヶ月連続で50以下の領域に甘んじた。半導体不足の段階的解消に支えられ日本が底堅さを維持した他、米国が50を回復し、異例の弱さに直面している欧州も一部に改善の兆候が確認されたが、その一方で中国が50を下回った。IT関連財の生産集積地である日本、台湾、韓国において在庫調整が進展していることから判断すると、来年前半までには世界的に生産活動の底打ちが期待されるが、中国における生産・投資活動の調整が足かせとなる可能性はある。この間、日本企業の業績予想(TOPIX予想EPS)は円安や内需の底堅さに支えられマイナス圏突入は回避できているが、増益率拡大に転じるにはなお時間を要すると判断される。

工作機械受注・グローバルPMI、工作機械受注・予想EPS
工作機械受注・グローバルPMI、工作機械受注・予想EPS

工作機械受注・グローバルPMI
工作機械受注・グローバルPMI

工作機械受注・予想EPS
工作機械受注・予想EPS

  • 工作機械受注サイクルの位置取りを確認するために縦軸に受注額の水準(36ヶ月平均からの乖離)、横軸に方向感(6ヶ月前比)をとった循環図をみると、直近は左下局面(低水準・伸び率マイナス)を右方向に進路をとっている。これは受注高が低水準で推移しているものの、減少ペースが和らいでいることを意味する。過去の経験則に従うなら今後は右方向へ推移した後、徐々に上向きの進路をとると思われる。半導体不足解消に伴う自動車生産の回復およびそれに伴う設備投資誘発が予想される中、IT関連財の在庫調整が進展するにしたがって半導体向け投資の復調が期待される。今後、米中経済が急失速しない限り「左下」方向へ深く掘り下げる展開は想像しにくくなった。株価が既にそうした好転を先取りしている感はあるが、梯子を外されるリスクは和らいでいる。

工作機械受注、工作機械受注・TOPIX機械
工作機械受注、工作機械受注・TOPIX機械

工作機械受注
工作機械受注

工作機械受注・TOPIX機械
工作機械受注・TOPIX機械

藤代 宏一


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