一昔前に買ったPC の不調が日本株を救う

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+1.2%、NASDAQは+1.2%で引け。VIXは19.8へと低下。
  • 米金利はカーブ全般で金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.438%(+1.3bp)へと上昇。
    実質金利は2.454%(+4.5bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲16.2bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPY は149近傍へと下落。コモディティはWTI原油が82.3㌦(▲3.2㌦)へと低下。銅は8140.5㌦(+41.5㌦)へと上昇。金は2005.6㌦(+17.0㌦)へと上昇。

図表1
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図表2
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図表3
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図表4
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図表5
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注目点

  • 日本の9月鉱工業生産はIT関連財の在庫調整が進展しつつあることを示し、株式市場に朗報となった。日本株は世界的な株安の中で下落基調にあるものの、以下のように業績拡大を示唆するデータは安心感を与える。

  • 9月の鉱工業生産は前月比+0.2%と市場予想(+2.5%)を下回る物足りない結果であったが、先行きの生産計画を踏まえると、何とか持ち堪えている印象であった。生産は2月以降、自動車生産の回復を起点に増産傾向にあったが、5月以降は海外経済の減速が重荷となり、一進一退の状況が続いている。9月は自動車工業が前月比+6.0%、汎用・業務用機械工業が+2.6%となった反面、生産用機械工業が▲3.4%となり全体を下押しした。

図表6
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図表7
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図表8
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  • 10月初旬に実施された生産予測調査に基づけば、製造工業の生産計画は10月が前月比+3.9%、11月が▲2.8%と均してみれば増産傾向が示された。経産省がバイアスを補正した10月の予測値は+1.1%とまずまずの増産見込みで、仮にその通りになれば生産指数の水準は104.4となり、夏場の落ち込みを埋める。国内景気の底堅さが失われつつある中、米国経済が予想外の底堅さを維持し、中国経済にも一部底打ちの兆しが見えていることから、この生産計画に対するリスクは上下に均衡しているようにみえる。注目の輸送機械工業の生産計画は10月が前月比+8.1%、11月は+5.3%と2ヶ月連続の増産。サプライチェーンの乱れが快方に向かう中、本格的に稼働率が高まる模様。世界的に新車不足が長期化し、中古車価格が高止まりしていることから、新車の潜在需要は豊富に存在するとみられる。

  • 株式市場と関連の深い電子部品・デバイス工業の生産に目を向けると、9月の生産は前月比▲0.3%となり、前年比では▲9.2%へとマイナス幅が拡大した(8月は▲8.1%)。ノートPCやスマホの需要減衰を背景とするシリコンサイクルの悪化はなお継続しているが、在庫調整の進展もあり底打ち感がみられている(半導体製造装置も似た構図)。生産計画に目を向けると10月は+10.7%と増産、11月は▲5.9%と減産だが均してみれば増産傾向が示された。在庫調整が進展したことで、減産圧力は和らいでいる。

図表9
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  • 電子部品・デバイス工業は9月に出荷のマイナス幅が▲8.6%(8月は▲7.0%)へと拡大した反面、在庫は▲20.1%(8月は▲1.3%)と大幅に減少したことから、出荷・在庫バランス(両者の前年比差分から算出)は+11.5%へと一気にプラス圏に浮上し、3ヶ月平均でも▲4.4%へとマイナス幅が縮小。サイクル好転に期待を持たせた。在庫循環図の位置取りは、左上領域(在庫増・出荷減)から右下領域(在庫減・出荷減)に前進。過去の経験則に従うならば、今後は右下方向(在庫減・出荷増)に進路をとる蓋然性が高く、その過程において景況感好転が期待される。

図表10
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図表11
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図表12
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  • 長期的に電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスと日経平均株価は連動性を有してきた。株価指数において半導体の製造を直接手掛ける企業の存在感は必ずや大きくはないが、半導体製造装置や部材(化学品)など「広義半導体」で見ればその存在感は大きく、結果的に日本株全体の動きを説明するという構図が背景にある。今後ノートPC・スマホの販売低迷が長期化したり、データセンタ向け投資の抑制が続いたりして需給バランスの好転が遅れる可能性はあるが、AI向け半導体需要の爆発的増加やコロナ初期局面にあたる2020年に購入されたノートPCの一部が買い替え期に突入することで、新たな需要が発生すればIT関連財市況は持ち直し、日本株のダウンサイドリスクは後退する。現在の金融市場は米金利上昇に支配されているが、製造業指標が発するシグナルも注意深くみる必要があるだろう。

図表13
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藤代 宏一


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