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ドイツで反移民の左派系新党が誕生へ

~極右支持拡大の歯止めとなるか、極端な政党が増えるだけか?~

田中 理

要旨
  • ドイツで人気のある左翼党の政治家ヴァーゲンクネヒト氏が新党を旗揚げする。福祉国家、反気候変動、反ウクライナ武器供与、反NATOの左翼党の主張を引き継ぐと同時に、反移民を重点政策に掲げ、主要政党への不満から極右支持に回っている有権者の支持獲得を目指す。新党が10%超の支持を獲得するとの世論調査もあり、ドイツ政界の台風の目となりそうだ。同党がどの程度の政治勢力となるかは、来年の欧州議会選挙と旧東ドイツ3州の州議会選挙が試金石となろう。新党誕生による影響は、現時点で断定することは難しい。新党が連立政権を率いる左派政党や躍進する極右から支持を奪い、政権奪還を目指す保守政党が漁夫の利を得るか、次期政権発足に新党の協力が必要となるか、新党と極右がともに支持を伸ばし、両党抜きでの政権発足が困難となるか、新党がどの程度の勢力となるかが今後のドイツ政界を左右することになりそうだ。

連立政権の支持率低迷や極右政党の躍進が続くドイツ政界に新たな政党が誕生する。旧東ドイツの支配政党の流れを汲む左翼党(Linke)の議会代表などを務めたザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏など8名が23日、来年の欧州議会選挙に向けて新党を立ち上げるため、同党を離党した。旧東ドイツ出身のヴァーゲンクネヒト氏は、テレビの政治番組に頻繁に登場する論客で、ベストセラーの著書を持つ。離党した左翼党を代表する政治家で、最近のビルト紙の世論調査ではドイツで3番目に人気のある政治家として名前が挙げられる。同氏が来年1月に旗揚げ予定の新党は、富裕層課税や歳出拡大など経済政策運営では伝統的な福祉国家を目指すとともに、気候変動対策、ウクライナへの武器供与、北大西洋条約機構(NATO)に批判的な左翼党の立場を踏襲するが、移民に批判的な点で従来の左翼党の立場と一線を画する。同氏は伝統的な政党に不満を持つが、右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のナショナリスト的な主張に賛同できない有権者の声を反映する政党を目指すとしている。ビルト紙が23日に行った世論調査では、ヴァーゲンクネヒト氏の新党が12%の支持を獲得するとしており、これは連立政権に加わる環境政党・緑の党(Grüne)に次ぐ支持率だ。先のドイツ2州の州議会選挙で躍進したAfDから支持を奪うとともに、政権を率いる中道左派の社会民主党(SPD)や緑の党からも支持を奪う可能性がある。

新党旗揚げ前の世論調査では、政権奪還を目指す中道右派の「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が30%前後の支持を獲得、AfDが20%超の支持でこれを追い、連立を主導するSPD、連立に加わる緑の党が15%前後、連立に加わるリベラル政党・自由民主党(FDP)、左翼党が議席獲得の当落線上にある(図)。前回2021年の連邦議会選挙で議席獲得の当落線上にあった左翼党は、ヴァーゲンクネヒト氏の離党と新党旗揚げにより、2024年の次の連邦議会選挙での議席獲得が難しくなりそうだ。新党が左翼党の支持を引き継ぐとともに、AfD、SPD、緑の党から支持を奪うとなると、議会内で10%超の勢力となることは十分に考えられる。同党がどの程度の政治勢力となるかは、来年6月の欧州議会選挙、秋の旧東ドイツ3州の州議会選挙が試金石となろう。左派とAfDから支持を奪うことで、CDU・CSUが漁夫の利を得るのか、次期政権の発足に新党の協力が必要になるか、新党とAfDがさらに支持を伸ばし、両党抜きでの連立政権発足が難しくなるのか、新党誕生によるドイツの政治環境に与える影響を現時点で断定することは難しい。何れにせよ新党がどの程度の勢力となるかが、今後のドイツ政界を左右することになりそうだ。

(図)ドイツ政党別の支持率調査
(図)ドイツ政党別の支持率調査

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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