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EUの未来を左右するポーランド総選挙

~反EU政権が倒れ、親EU政権が誕生へ~

田中 理

要旨
  • ポーランドの総選挙で、反EU政権が敗れ、親EU政権が誕生することが確実となった。近年、ポーランドは法の支配や難民受け入れなどを巡って、EUとの対立を繰り返してきた。新政権はEUとの関係改善、凍結されていた欧州復興基金の拠出開始を目指す。ポーランドの拒否権発動でEUの制裁決議を免れてきたハンガリーの対EU関係に与える影響にも注目が集まる。

15日に行われたポーランド総選挙の出口調査によれば、近年、法の支配などを巡ってEUと対立を繰り返してきた現与党で右派ポピュリストの「法と正義(PiS)」が最多票を獲得したものの、連立の可能性がある極右政党と合わせても過半数に届かなかった模様。この結果、欧州理事会の前常任議長(いわゆるEU大統領)を務めたトゥスク元首相が率いる「市民連合(KO)」など、反与党のリベラル勢力3党が過半数の議席を確保し、政権を奪取する可能性が高まった。

政権続投を目指したPiSは、トゥスク氏をベルリン(ドイツ政府)やブリュッセル(EU)の操り人形で、ポーランドの独立を脅かし、イスラム諸国からの大量の移民流入を招くと批判、影響力を持つ国有メディアを使って選挙戦を有利に進めようとした。また、PiSの支持基盤が強固な地方の投票所や投票所に向かうバス路線を増やしたほか、総選挙と合わせて、退職年齢、ベラルーシとの国境管理、EUの移民受け入れ割り当て、国有企業の民営化を巡る4つの国民投票を実施し、与党支持者の投票率を高めようとした。対する野党勢は、与党が司法やメディアを支配していると批判、与党政権の続投がポーランドのリベラル民主主義を脅かすと主張、今回の選挙が共産党体制崩壊後のポーランドにとって最も重要で、EUの未来を左右すると訴えた。与党のスキャンダル発覚や野党の主張がEU再接近を求める若者の投票率上昇につながり、逆転勝利につながった。

新議会は選挙から30日以内に召集される。与党出身のドゥダ大統領は、新議会の招集から14日以内に、最多議席を獲得したPiSの首相候補を指名することが予想される。だが、PiSの首相候補が政権発足に必要な議会の過半数の支持を得る見込みは立たない。その場合、議会は14日以内に次の首相候補を指名し、改めて議会の信任投票を行う。現地メディアによれば、こうした手続きを経てトゥスク新政権が誕生するのは12月にずれ込むとみられ、その間はPiSが暫定政権を率いる可能性が高い。議会の過半数の支持を得ていない暫定政権が重要法案を可決することは難しく、次期政権が発足するまでの間、大きな政策変更は予想されない。なお、議会が指名する首相候補が議会で信任されない場合には、大統領が3人目の首相候補を指名し、その候補も議会で信任されないと議会を解散し、45日以内に再選挙が行われる。また、総選挙と同時に行われた4つの国民投票は50%の投票率に届かず、何れも成立しなかった。

トゥスク氏はEUとの関係改善、司法介入などを巡って凍結されている欧州復興基金の拠出開始を目指すとしている。また、現政権が進めた中絶反対を撤回する可能性も示唆している。経済政策面では、個人所得の非課税枠の倍増、住宅の新規購入や改修時の補助金、3歳未満の子育て中の母親の職場復帰時の補助金、公共部門の20%の賃上げなどを主張しており、現政権以上に拡張的な財政運営を計画している。

なお、近年、ポーランドとともにEUとの対立を繰り返してきたハンガリーは、これまでポーランドの拒否権発動で重要な制裁決議などを免れてきた。ポーランドで親EU政権が誕生することで、ハンガリーとEUとの対立がどう展開するかにも注目が集まる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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