それでもインフレは落ち着きつつある(9 月米CPI)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。S&P500は▲0.6%、NASDAQは▲0.6%で引け。VIXは16.7へと上昇。

  • 米金利はベア・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.345%(+3.0bp)へと上昇。実質金利は2.351%(+10.8bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲37.6bpへとマイナス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが堅調。USD/JPYは149後半へと上昇。コモディティはWTI原油が82.9㌦(▲0.6㌦)へと低下。銅は7991.0㌦(▲33.0㌦)へと低下。金は1869.3㌦(▲3.5㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差
米国 イールドカーブ、前日差、名目金利・予想インフレ率・実質金利、長短金利差

注目点

  • 9月米CPIはインフレ沈静化の進展を示し、Fedの利上げがもはや不要になりつつあることを確認させる結果であった。利上げを見送った9月FOMCに続き、11月も据え置きとなり、そのまま5.50(誘導目標レンジ上限値)がターミナルレートになるとの予想を維持する。FF金利先物は12月までに追加の利上げ(25bp)を約3割の確率で織り込んでいるが、最近のFed高官のハト派寄りの発言などを踏まえると、利上げ再開には距離があると判断される。

  • 総合CPIは前月比+0.4%、前年比+3.7%であった。前月比の伸びは市場予想を上回り、前年比も予想を上振れた。ガソリン価格上昇によってエネルギーが前月比+1.5%と4ヶ月連続で伸び、前年比▲0.5%に下落幅が縮小した他、食料が+0.3%、前年比+3.7%と高い伸びが続いた。コアCPIは前月比+0.3%、前年比+4.1%と8月の+4.3%から減速し、こちらは市場予想に一致した。小数点2桁ベースの前月比伸び率は8月の+0.28%から9月は+0.32%へ加速し、やや「ぶり返し」の気配があるものの、それでも3ヶ月前比年率の上昇率は+3.1%、その3ヶ月平均値は+2.8%まで減速し、いよいよ2%台の定着を視界に捉えている。10月以降もコアの前月比が加速するならば注意が必要だが、平均時給の低下基調等に鑑みれば大幅な再加速は見込み難い。

米国 CPI
米国 CPI

米国 コアCPI
米国 コアCPI

米国 CPI、米国 コアCPI
米国 CPI、米国 コアCPI

  • コアCPIを「財」と「サービス」に分解すると、コア財は前月比▲0.4%、前年比+0.0%であった。サプライチェーンが概ね修復し新車の供給が増加基調にある中、中古車価格が前月比▲2.5%と4ヶ月連続で低下し、関連指標のマンハイム中古車価格指数と概ね整合的な姿になった。コアサービスは前月比+0.6%、前年比+5.7%となり前年比上昇率は8月から減速した。CPI全体のうち3割程度の比重を有する家賃は前月比+0.6%と高い伸びとなったものの、前年比では+7.1%へと減速。CPI全体を押し上げる構図(品目別の寄与度は最大)が続いたものの、前年比伸び率は2023年5月を頂点に5ヶ月連続で低下している。リアルタイムの家賃を捕捉するケース・シラー住宅価格やZillow指数が明確にピークアウトする中、それらに対してCPIで計測される家賃が1年程度の遅効性を有することを踏まえれば、当面のCPI家賃は上昇鈍化が既定路線であろう。家賃を除いたコアCPIは前月比+0.1%、3ヶ月前比年率は+1.1%と抑制された状態にあり前年比は+2.0%まで減速している。

米国 CPI
米国 CPI

米国 家賃除くコアCPI
米国 家賃除くコアCPI

米国 CPI、米国 家賃除くコアCPI
米国 CPI、米国 家賃除くコアCPI

ケース・シラー住宅価格指数・CPI家賃
ケース・シラー住宅価格指数・CPI家賃

  • ここで、労働コスト増加を起点とする現在のインフレがどう終息していくのかを見極めるためにNFIB中小企業調査に注目すると、こちらはやや不気味な兆候が散見される。9月は雇用計画が低下基調を維持したものの、人件費計画は上昇に転じ、設備投資計画は改善が一服した。大きく見れば、労働コスト増加に歯止めをかけたい企業が省力化によって収益を確保しようとする意図が伝わってくるが、人件費計画の反転は労働コストの抑制が一筋縄ではいかぬ事を物語っている。自動車業界のストライキに代表されるよう、労働者が待遇改善を要求する動きは依然として活発でそれが賃金インフレの沈静化を阻んでいる形。

NFIB中小企業調査
NFIB中小企業調査

  • もっとも、Fedが更なる金融引き締めを検討するにあたって「市場金利の上昇がもたらした金融引き締め効果」の存在感が急速に増している。10月5日(および10日)のデーリー・サンフランシスコ連銀総裁を皮切りに、ジェファーソン副議長、ローガン・ダラス連銀総裁が同様の見解を示し、10月11日にはタカ派寄りのウォーラー理事、12日にはコリンズ・ボストン連銀総裁も追随した。市場金利が急速なペース(たとえば12月までに10年金利が3%台後半)で低下し、株価が吹き上がるといった事態にならない限り、Fedは利上げを見送ると判断される。

藤代 宏一


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