工作機械受注が教えてくれる景況感(2023 年9月)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.4%、NASDAQは+0.7%で引け。VIXは16.1へと低下。
  • 米金利はツイスト・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.314%(▲1.0bp)へと低下。
    実質金利は2.242%(▲8.4bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲42.8bpへとマイナス幅拡大。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは149前半へと上昇。コモディティはWTI原油が83.5㌦(▲2.5㌦)へと低下。銅は8024.0㌦(+1.5㌦)へと上昇。金は1872.8㌦(+11.8㌦)へと上昇。

図表1
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図表2
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図表3
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図表4
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図表5
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経済指標

  • 9月米PPIは前年比+2.1%とやや反転の兆候。輸入物価の下げ止まりを受けて財物価がプラス圏に浮上したことが背景。もっとも、コアは+2.6%で安定している。コロナ期前を依然として上回るものの、企業段階のインフレが落ち着きつつあるとの判断に変わりはない。先行指標として有用なISM製造業の仕入(支払)価格指数も低水準で推移している。

図表6
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図表7
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図表8
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注目点

  • 10月11日に発表された9月の工作機械受注統計(日本工作機械工業会)は、生産・投資活動のサイクル好転に対する期待を膨らませる結果であった。9月の受注額(原数値)は1339億円、前年比伸び率(原数値)は▲11.2%と減少基調継続もマイナス幅は明確に縮小。筆者作成の季節調整値は前月比+2.9%、1227億円と2ヶ月連続で増加し、3ヶ月平均値でみても+1.4%と4ヶ月ぶりにプラスに転じた。単月の内訳は「国内向け」が季節調整済み前月比+6.3%、原数値前年比▲14.1%と弱さが残存するも、「外需」は前月比+1.7%、前年比では▲9.7%と復活の兆しがみられた。全体として安心感のある材料であった。

図表9
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図表10
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図表11
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図表12
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  • 日本の工作機械受注は、そのサイクルがグローバル製造業PMIやアナリストの業績予想(TOPIX予想EPS)と連動性を有する。9月グローバル製造業PMIは49.1と13ヶ月連続で50以下の領域に甘んじたが7月の48.6からは改善。半導体不足の段階的解消に支えられ日本が底堅さを維持した他、中国が50を回復し、米国も下げ止まっている。異例の弱さに直面している欧州も、全体としては改善の兆候が確認されている。IT関連財の生産集積地である日本、台湾、韓国において在庫調整が進展していることから判断すると、来年前半までに世界的な生産活動の底打ちが期待される。この間、日本企業の業績予想(TOPIX予想EPS)は伸び率が鈍化しているとはいえ、内需の底堅さにも支えられ、水準は持続的に高まっている。中国経済は加速感に乏しい状況が続くものの、今後は米国が底堅さが持続する下、半導体市況が最悪期を脱出することで、製造業のサイクルが上向きに転じると期待される。

図表13
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図表14
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図表15
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  • 工作機械受注サイクルの位置取りを確認するために縦軸に受注額の水準(36ヶ月平均からの乖離)、横軸に方向感(6ヶ月前比)をとった循環図をみると、直近は左下局面(低水準・伸び率マイナス)を右方向に進路をとっている。これは受注高が低水準で推移しているものの、減少ペースが和らいでいることを意味する。過去の経験則に従うなら今後は右方向へ推移した後、徐々に上向きの進路をとると思われる。IT関連財の在庫調整が進展するにしたがって半導体向け投資の復調が期待される他、今次サイクルの特殊要因として半導体不足解消に伴う自動車生産の回復およびそれに伴う設備投資の誘発が予想される。米中経済が急失速しない限り、今後「左下」方向へ深く掘り下げる展開は想像しにくくなった。株価が既にそうした好転を先取りしている感はあるが、梯子を外されるリスクは和らいでいる。

図表16
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図表17
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図表18
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藤代 宏一


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