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ドイツ州議会選挙で極右支持が更に拡大

~旧西ドイツ地域でも過去最大の支持を獲得~

田中 理

要旨
  • ドイツ2州の州議会選挙は、2025年の連邦議会選挙での政権奪還を目指す中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、連立政権の移民・環境政策への批判票を集める右派ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)が支持を集め、ショルツ首相が率いる連立3党の支持が低迷。来年央の欧州議会選挙、秋の旧東ドイツの3つの州議会選挙でのAfDの更なる躍進が予想される。CDU・CSU内の首相候補レースは、CDUのメルツ党首にやや追い風。

8日に行われたドイツ2州の州議会選挙は、今後のドイツ政局を占ううえで重要なインプリケーションを持つ。ドイツ南部の商業都市ミュンヘンが位置するバイエルン州の議会選挙は、同州政界で圧倒的な支持基盤を誇る中道右派のキリスト教社会同盟(CSU)が37.1%と最多票を獲得したものの、1950年以来で最も低い得票率にとどまった(図表1)。CSUはバイエルン州のみで活動する地域政党で、国政(連邦)レベルの現最大野党で二大政党の一角を占めるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党。支持を伸ばしたのは、CSUで州議会運営で連立を組む右派ポピュリスト・自由な投票者(FW)と、政府の移民・環境政策の批判票を集める右派ポピュリスト・ドイツのための選択肢(AfD)の2党。国政レベルで連立を組む中道左派の社会民主党(SPD)、環境政党・緑の党(Grüne)、リベラル政党・自由民主党(FDP)の3党は揃って支持を落とした。なかでもSPDの得票率は1桁台で低迷し、FDPは議席獲得に必要な5%に届かなかった。選挙結果を受けて、現州議会を率いるCSUとFWが再び連立政権を率いる可能性が高い。

図表1
図表1

ドイツ西部の金融投資フランクフルトが位置するヘッセン州の議会選挙は、国政レベルで連立政権を率いる3党が揃って支持を落とすなか、現政権に対する不満票を集める形で、現在、緑の党とともに連立政権を率いるCDUと、ユーロ危機時や難民危機時を上回る支持を集めるAfDが得票率を大きく伸ばした(図表2)。CDUが支持を伸ばしたことを受け、CDUと緑の党が再び連立政権を率いる公算が大きい。

今回の2つの州議会選挙のインプリケーションは3つ。第1はAfDの更なる躍進。欧州では近年、北アフリカなどからの移民の流入が再び増加しており、AfDは国政を率いる連立政権による移民制限の対応が不十分と考える有権者の支持を集めている。また、ドイツ政府は来年以降、石油やガスなどの化石燃料由来の暖房設備の設置を禁止し、ヒートポンプや太陽光など再生可能エネルギーの利用を義務付ける。こうした措置は低所得層や賃貸物件利用者への負担が大きいとして国民から反対の声も多い。AfDは家計の負担増を招き、国民の自由意思を奪う政府の環境対策を批判し、支持を集めている。

AfDは国政レベルの最近の世論調査で、連立政権を率いるSPDを抜き、20%強の支持を獲得し、CDUに次ぐ2番手につける(図表3)。AfDの支持はこれまで主に旧東ドイツ地域が中心だったが、今回は旧西ドイツの2州の州議会選挙で何れも過去最高の票を獲得。ヘッセン州での18.4%の得票率は、旧西ドイツ地域としては州議会・国政ともに過去最高を更新した。来年央の欧州議会選挙、来年秋の旧東ドイツ3州の州議会選挙での、AfDの更なる躍進が不安視される(図表4)。今のところ主要政党はAfDとの連立を否定しており、仮にAfDがさらに支持を伸ばして第1党になったとしても、単独過半数に届かない限り、政権発足の可能性は低い。だが、二大政党による大連立や多党連立に加わる政党は政権発足後に支持を落とす傾向があり、市町村レベルではAfDが首長を輩出するケースも出ている。このままAfDが2~3割の議席を獲得するのが当たり前となった場合、AfDを排除する形での政権発足は徐々に難しくなってくる。

図表3
図表3

図表4
図表4

第2に、国政を率いる3党の支持低迷だ。今回の2州の選挙で3党は何れも支持を落とした。来年の欧州議会選挙や2025年の連邦議会選挙を控え、ショルツ首相に対しては移民政策の強化や環境政策の軌道修正を求める声が高まることが予想される。こうした政策の軌道修正は連立政権内の不協和音を一段と高めることになりそうだ。連立内の足並みの乱れは、連立3党の支持回復が容易でないことを意味する。ただ、3党ともに支持を落としており(特にFDPは議席獲得のボーダーライン上にいる)、緑の党やFDPの連立離脱による早期の解散・総選挙の可能性は低い。

第3に、2025年の連邦議会選挙での政権奪還が濃厚なCDU・CSU内の首相候補レースに与える影響だ。次の首相候補としては、CDUを率いるメルツ党首、バイエルン州の州首相でCSUを率いるゼーダー党首の2人が有力候補となる。メルツ党首に対してはこれまで、連立政権に対する国民の不満を十分な票に結びつけられていないことや、AfDの支持拡大を食い止められていないことに対して、党内から不満の声も浮上していた。ヘッセン州議会選挙でのCDUの支持拡大と、バイエルン州議会選挙でのCSUの支持伸び悩みは、メルツ党首にやや追い風となりそうだ。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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