米国:マッカーシー下院議長の解任動議が可決

~つなぎ予算失効後に政府閉鎖へと陥る可能性が上昇~

前田 和馬

要旨
  • 10/3、米下院ではマッカーシー下院議長の解任動議が提出され、共和党の保守強硬派と民主党による賛成多数でこれを可決した。下院議長が解任されるのは歴史上初めてとなる。
  • 後任の下院議長が速やかに選出されるのか、また選出される場合でもつなぎ予算が失効する11/17までに2024会計年度予算の成立に向けた取り組みが進展するかは不透明な情勢である。
  • 現つなぎ予算の失効後に全面的な政府閉鎖が1か月続く場合、10-12月期実質GDP成長率(前期比)は-0.32%pt押下げられると試算される。
  • 10/3、米下院ではマッカーシー下院議長の解任動議が提出され、共和党の保守強硬派と民主党による賛成多数でこれを可決した。下院議長が解任されるのは歴史上初めてとなる。
  • 後任の下院議長が速やかに選出されるのか、また選出される場合でもつなぎ予算が失効する11/17までに2024会計年度予算の成立に向けた取り組みが進展するかは不透明な情勢である。
  • 現つなぎ予算の失効後に全面的な政府閉鎖が1か月続く場合、10-12月期実質GDP成長率(前期比)は-0.32%pt押下げられると試算される。

10/3、米下院では保守強硬派のゲーツ下院議員がマッカーシー下院議長の解任動議を提出し、216対210の賛成多数でこれを可決した。下院では共和党が221議席、民主党が212議席を有する一方、同氏の解任に対しては208名の民主党議員(4名は欠席)と8名の共和党議員が賛成した。下院議長の解任動議が採決されたのは1910年以来であり、これが可決されたのは歴史上初めてとなる(注1)。

政府閉鎖が迫る9/29、マッカーシー氏は歳出規模の削減、国境警備対策の強化、ウクライナ支援の除外を含む30日間のつなぎ予算案を下院に提出したものの、年度予算の成立を目指す保守強硬派(フリーダム・コーカス)がこうした暫定措置に反対したため、同予算案は下院で否決された。翌日9/30、政府閉鎖がほぼ確実との見方が強まるなか、マッカーシー氏は同予算案から歳出削減と国境警備対策の強化に関する内容を削除すると同時に、バイデン政権が求める災害対策費を加えることにより、上下両院の民主党の賛同を獲得し、45日間のつなぎ予算(~11/17)の成立へと結びつけた。

こうした超党派での政府閉鎖回避の動きを巡って、ゲーツ議員を中心とした保守強硬派はマッカーシー氏への反発を強めていた。一方マッカーシー氏は解任動議の否決を狙った民主党への働きかけを特段行わなかったため、下院民主党は同氏を留任させるような行動を採らずに解任動議に賛成した。なお2023年1月の下院議長選出に際して、マッカーシー氏は保守強硬派が要求した議長解任動議の提出要件緩和を受け入れ(提出要件を従来の5人から1人に引き下げ)、最終的に15回目の投票にて下院議長として選出されていた(注2)。

マッカーシー下院議長の更迭に伴い、後任の臨時下院議長として共和党のマクヘンリー下院議員が就任した。マクヘンリー氏はマッカーシー前議長の盟友として、1月の下院議長選における共和党内の取りまとめや5月の債務上限問題の際のバイデン大統領との交渉において、重要な役割を担ったとみられている。マクヘンリー氏は10/11に下院議長の選出投票を行うと述べる一方、後任の議長を速やかに選任できるかは依然不透明な情勢だ。解任動議を提出したゲーツ氏は下院共和党ナンバー2のスカリス院内総務を議長候補として挙げている。同氏は血液がんの治療中であるものの、10/3時点で「健康状態は良好」とコメントしている(注3)。一方マッカーシー氏は再び下院議長の就任を目指す考えを否定している。なお下院規則は後任議長を選出する期限を具体的に定めていない(注4)。

後任議長の選出が速やかに選出される場合においても、2024会計年度予算を巡る共和党指導部と保守強硬派の対立は続くことが予想される。また、歳出削減を中心とした保守強硬派の主張が通らない場合、これらの議員が後任議長に対しても解任動議を提出する可能性がある。このため、現つなぎ予算の失効までに、年度予算及び新たなつなぎ予算の成立に向けた取り組みが進展するかは不透明であり、同予算の期限である11/17が近づくにつれて再び政府閉鎖の懸念が強まる可能性が高い。 11月中旬に政府閉鎖へと陥る場合、政府サービス等の減少によって10-12月期実質GDPは押し下げられる見通しだ。直接的な影響は一時帰休の対象となる政府職員数、及び政府閉鎖期間に依存するものの、仮に大半の政府機関が1か月閉鎖される場合、10-12月期実質GDP成長率(前期比)に対する直接的な影響は-0.32%ptと試算される(詳細は「政府閉鎖による米国経済への影響」参照)。


【注釈】

  1. 1910年に共和党のキャノン下院議長が自身で解任動議を提出したものの、共和党は圧倒的多数でこれを否決した。2015年には共和党のベイナー議長の解任動議を同党のメドウズ議員が提出し、この提案が採決されることはなかったものの、同年9月にベイナー氏は下院議長を辞任することを表明し、その後政界からも引退した。

  2. 今回の解任動議を支持した共和党議員8人のうち5人は、1月にマッカーシー氏が下院議長に選出された際の投票を棄権している。

  3. Top Republican Rep. Steve Scalise working behind the scenes to replace Kevin McCarthy as speaker | Fox News

  4. What happens next if Kevin McCarthy is ousted as Speaker of the House (nbcnews.com)

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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