日銀短観9月調査と株式市場 鍵は回復のバトン

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株はまちまち。S&P500は▲0.3%、NASDAQは+0.1%で引け。VIXは17.5へと上昇。
  • 米金利はブル・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.341%(▲3.6bp)へと低下。
    実質金利は2.229%(+3.2bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲47.7bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは149前半で一進一退。コモディティはWTI原油が90.8㌦(▲0.9㌦)へと低下。銅は8270.5㌦(+53.0㌦)へと上昇。金は1848.1㌦(▲12.3㌦)へと低下。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

図表5
図表5

経済指標

  • 9月中国製造業PMI(政府版)は50.2へと0.5pt上昇し市場予想に概ね一致し、6ヶ月ぶりに50を回復した。非製造業PMIも51.7へと0.7pt上昇。他方、財新版のそれは製造業PMIが50.6へと小幅に低下、サービス業PMIは50.2へと1.6ptもの低下を示し減速感が鮮明。このように強弱区々の結果であったが、政府版と財新版がともに50を上回ったことに鑑みれば、中国経済に対する楽観はある程度正当化されよう。

図表6
図表6

図表7
図表7

図表8
図表8

注目点

  • 日銀短観(9月調査)によると業況判断DIは、大企業製造業が+9と前回調査対比4pt上昇した(市場予想+6)。内需の回復が遅々としている他、世界的な半導体市況の悪化が重荷となったものの、サプライチェーンの復旧に伴い自動車の挽回生産が本格化したことで関連業種を巻き込んで改善がみられた。大企業非製造業も+27へと前回調査対比4pt改善し市場予想の+24を上回った。インバウンド再開を含む裁量的な需要の持ち直しが効いた他、企業の旺盛なDX投資等に支えられた。先行き判断DIは大企業製造業が+10と現況対比で更なる改善を見込みんだ一方、大企業非製造業は+21と現況対比でやや慎重な見通しであった。

図表9
図表9

  • 大企業製造業は自動車(6月調査:+9→9月調査:+15)が大きく改善し、その影響もあって化学(▲2→+3)、窯業・土石(▲2→+16)、業務用機械(+28→+30)が上昇し、鉄鋼(+18→+18)もまずまずの水準を維持した。その反面、IT関連財の不調から電気機械(+2→▲2)はマイナス圏に転落し、はん用機械(+18→+11)、生産用機械(+20→+14)なども低下した。その他では値上げ効果の浸透から食料品(+6→+16)が大きく改善。製造業全としては当面、自動車生産の回復に牽引される構図が見込まれる。問題は新車の潜在需要を消化し切るまでに半導体市況が持ち直すか否かであろう。2024年前半までに半導体市況が好転すれば、回復のバトンは無事に引き継がれそうだが、それが実現しないとエンジンを失う形になりそうだ。

  • 大企業非製造業は宿泊・サービス(+36→+44)の回復が続いた他、対個人サービス(+28→+24)が良好な水準を維持すると共に小売(+17→+24)、卸売(+28→+32)の強さが続いた。個人消費関連業種(≒BtoC)の強さは、家計調査が捕捉する実質消費支出がマイナス傾向にあるのとは整合しないが、少なくとも企業景況感は改善傾向にある。この間、不動産(+32→+37)、建設(+21→+22)の強さは続き、物品賃貸(+30→+28)も高水準を維持。企業のDX投資に支えられ、情報サービス(+45→+42)、対事業所サービス(+26→+32)、通信(+14→+14)は良好な水準を維持した。なお雇用人員判断DI(全規模・全産業)は▲33へと1pt低下。労働集約型のサービス業において人手不足は深刻度合いを増している。

  • TOPIX構成銘柄と属性の近い大企業全産業の業況判断DIは+17と前回調査対比4pt上昇。またTOPIXの予想EPSと密接に連動する売上高経常利益率の年度計画も8.48%へと上昇し、企業業績の改善を示唆した。前回調査対比で欧米諸国の景気減速が重荷になった反面、自動車生産の回復を起点とする生産活動の持ち直しに加え、円安による業績嵩上げ効果が増幅した模様。また企業の物価見通し(全規模・全産業)は、販売価格見通し(≒自社製品・サービスの価格設定スタンス、1年先)が物価見通し(≒日本の物価上昇率、1年先)を上回っている状態が続いている。今後も企業はコスト増加を積極的に価格転嫁することで、収益を確保していくと予想される。

  • なお日銀短観の調査は、前月からの変化を問うPMI等と異なり比較時点を問わない形式である。企業は回答にあたって自社の収益計画を基準にしていると考えられ、それを満たしていれば「良い」「さほど良くない」「悪い」の3択から「良い」を選択するはずである。したがって業況判断DIの改善は業績上方修正の余地と考えることができる。短観とアナリスト予想の方向感が一致するのはそうした背景があるとみられる。

図表10
図表10

図表11
図表11

図表12
図表12

図表13
図表13

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。