市場が米金利上昇に支配される中で静かに進む半導体の在庫調整

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年後半を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.6%、NASDAQは+0.8%で引け。VIXは17.3へと低下。

  • 米金利はブル・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.377%(+3.1bp)へと上昇。実質金利は2.196%(▲6.3bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲48.5bpへとマイナス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは149前半へと低下。コモディティはWTI原油が91.7㌦(▲2.0㌦)へと低下。銅は8217.5㌦(+103.5㌦)へと上昇。金は1860.4㌦(▲11.9㌦)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利、米国名目金利・予想インフレ率・実質金利
米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利、米国名目金利・予想インフレ率・実質金利

注目点

  • 8月米中古住宅販売成約指数は前月比▲7.1%と大幅に低下し、3ヶ月平均値でも▲2.1%と明確に減少した。この指標が実際の中古住宅販売に1~2ヶ月の先行性を有することから判断すると、向こう数ヶ月の内に中古住宅販売はリーマンショックのボトム時と同水準にまで落ち込む可能性が示唆される。背景にあるのは住宅ローン金利の急騰。住宅の買い替えに伴って新たにローンを組む際、30年固定型の場合7%強の金利が適用されてしまうため、保有物件の売却を躊躇う動きが広がっている。それが中古物件の枯渇を通じて販売を抑制している。

中古住宅販売件数・成約指数
中古住宅販売件数・成約指数

注目点

  • 日本の8月鉱工業生産はIT関連財の在庫調整が進展しつつあることを示し、株式市場に朗報となった。関連銘柄の株価は既にサイクル好転を織り込んだ水準にあるとはいえ、このように業績拡大の道筋が拓けつつあることを示すデータは安心感を与える。この間、自動車の挽回生産が進展していることも朗報。

鉱工業生産指数
鉱工業生産指数

生産 自動車工業
生産 自動車工業

鉱工業生産指数、生産 自動車工業
鉱工業生産指数、生産 自動車工業

  • 8月の鉱工業生産は前月比±0.0%と市場予想(▲0.8%)を上回った。2月以降、自動車生産を起点とする増産傾向にあったが、5月以降は海外経済の減速が重荷となり、一進一退の状況が続いている。8月は電気・情報通信機械工業、金属製品工業が増産となった反面、自動車工業が▲3.9%の減産となり全体を下押しした。もっとも先行きは明るい見通しが示された。

  • 9月初旬に実施された生産予測調査に基づけば、製造工業の生産計画は9月が前月比+5.8%、10月が+3.8%と強気な増産傾向が示された。経産省がバイアスを補正した9月の予測値は+3.7%と強く、仮にその通りになれば生産指数の水準は107.6となり、2022年8月の水準を回復する。欧米経済の減速、中国経済の回復遅れは重荷であるが、国内景気が底堅さを維持する中、自動車の挽回生産とIT関連財の減産が一服する見込み。注目の輸送機械工業の生産計画は9月が前月比+8.1%、10月は+5.3%と2ヶ月連続の増産。サプライチェーンの乱れが快方に向かう中、いよいよ稼働率が高まる気配が出てきた。世界的に新車不足が長期化し、中古車価格が高止まりしていることから、新車の潜在需要は豊富に存在するとみられる。

  • 株式市場と関連の深い電子部品・デバイス工業の生産に目を向けると、8月の生産は前月比+0.5%となり指数水準は93.8へと上昇し、前年比では▲8.1%へとマイナス幅縮小(7月は▲11.4%)。ノートPCやスマホなどの需要減衰を背景とするシリコンサイクルの悪化はなお継続しているが、在庫調整の進展もあり生産には底打ち感がみられている(半導体製造装置も似た構図)。生産計画に目を向けると9月は▲2.2%と減産も10月は+11.2%と均してみれば増産傾向が示された。在庫調整が進展したことで、減産圧力は緩和している模様。

生産 IT関連財
生産 IT関連財

  • 8月は出荷のマイナス幅が▲7.0%(7月は▲14.2%)に縮小すると同時に在庫の伸び率が▲1.3%(7月は+4.8%)と再度マイナス圏へ回帰し、出荷・在庫バランス(両者の前年比差分から算出)は▲5.7%へと大幅改善。3ヶ月平均でも▲9.8%へとマイナス幅が縮小しており、サイクル好転に期待を持たせる結果となった。在庫循環図の位置取りは、左上領域(在庫増・出荷減)から右下方向(在庫減・出荷減)に向けて前進した。

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

電子部品・デバイス工業
電子部品・デバイス工業

  • 長期的に電子部品・デバイス工業の出荷・在庫バランスと日経平均株価は連動性を有してきた。株価指数において半導体の製造を直接手掛ける企業の存在感は大きくないが、半導体製造装置や部材(化学品)など「広義半導体」で見ればその存在感は大きく、結果的に日本株全体の動きを説明するという構図が背景にある。今後ノートPC・スマホの販売低迷が長期化したり、データセンタ向け投資が抑制されたりして需給バランスの改善が遅れる可能性はあるが、AI向け半導体の爆発的需要にも支えられ、在庫調整が進展すれば、日本株のダウンサイドリスクは後退し、指数は高値更新に向けて前進すると考えられる。現在の金融市場は米金利(上昇)に支配されているように見えるが、製造業指標が発するシグナルも注意深くみる必要があるだろう。

日経平均・出荷在庫バランス
日経平均・出荷在庫バランス

藤代 宏一


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