インフレ課税と闘う! インフレ課税と闘う!

1ドル150円を超え、先のストーリー

~為替介入の発動後を読む~

熊野 英生

要旨

現在、1ドル150円の円安水準は目前である。150円前後で政府の為替介入が予想される。その効果の持続性は、その先に日銀がマイナス金利解除という出口戦略に動けるかどうかにかかっている。もしも、2024年3・4月に動けそうにないとなれば、介入後も150円近くの円安に戻って行くだろう。

目次

2022年10月の為替介入

ドル円レートは、1ドル150円に接近している。到達は時間の問題に思える。筆者は、150円前後で、日本政府の為替介入の発動があると予想する。ここまでの予想ならば、誰でもできると思う。問題は、その先のストーリーだ。本稿では先読みがしにくい「その先」を考える。

多くの人は、2022年10月中旬からの変化を思い出して、同じような相場展開になりそうだと、推論をしている。2023年10月から2024年前半までに似たストーリー展開だと暗に思っているだろう。簡単に、2022年10月のドル円の動きを復習してみよう(図表)。政府は、9月22日、10月21・24日の3回に亘って、為替介入を実施した。21・24日は、金曜日と月曜日で、2営業日連続である。累計9.1兆円という巨大介入である。この21・24日で円安はピークアウトした。

介入のインパクトは、151円90銭台の円安を、約2か月間かけて12月中旬に130円近くまで戻す効果があった。そして、日銀が12月20日に長期金利の変動幅を上下0.50%まで広げた。これが唐突であったこともあり、円高は2023年1月には128円まで進んだ。当時の黒田総裁が、これは利上げではないと否定し、先行きの金融政策に予断を持たせないようにしたこともあり、そこからはさらなる円高には向かわなかった。

筆者は、2022年10月の為替介入が成功したのは、その後で金融政策の修正が行われたからだとみている。為替介入は、一時的な効果しか発揮しないと言われるが、その後で金融政策が動くまでの時間稼ぎにはなる。今回もそれが再現されるかどうかだ。

(図表)ドル円レートの推移
(図表)ドル円レートの推移

為替介入の後

筆者は、今後、為替介入が実施されて、1ドル150円前後の水準から一旦140円を割るところまで円高方向の修正が起こるとみる。問題は、その後で金融緩和の方針に修正が着いてくるかどうかである。9月9日の読売新聞での植田総裁のインタビューは、年内利上げに言及する刺激的なものだった。しかし、9月22日の定例会見ではそれをあっさりと否定する。それもあって、返って円安が進んでしまった。

米国でも、9月のFOMCで先行きの政策金利見通しが変更された。2024年末の金利水準は、6月の4.6%から9月は5.1%へと利下げが大きく後ずれする。米長期金利は4.5%台をつけるに至った。

今後、日銀の会合は10月30・31日、12月18・19日の年内2回が残されている。そこで改めて、政策修正を意識させる発言が飛び出せば、ドル円レートは昨年と同じように130円台前半まで修正されるだろう。

それがない場合、為替介入が150円の水準をピークアウトさせたとしても、割と早いタイミングで再び150円近くまで戻してくると予想する。植田総裁は、やはり慎重なので、君子豹変することは期待しずらいかもしれない。そう考えると、為替レートは一旦円高に振れてから円安に戻る可能性の方が高いのではないか。

国内マネーは、円高になったタイミングで再び円安に戻っていくという予想に基づき、ドル投資に動きやすい。筆者は、「円高になれば外貨投資を増やす」という圧力が非常に強いと感じる。つまり、潜在的な円売り・ドル買いの圧力は強いという見方である。

日銀の出口戦略

植田総裁は、賃金に言及することが多くなっている。来年の春闘が政策変更の重要な要因になったいることは明らかだ。春闘の集中回答日は、3月半ばになる。日銀の会合は、2024年3月18・19日と4月25・26日に予定されている。早ければ、日銀は3月にマイナス金利を解除する(筆者のメインシナリオは展望レポート発表がある4月解除)。

では、日銀は3月あるいは4月の緩和解除をどのくらいの時期からアナウンスしていくのだろうか。これが円高への修正の起点になると考えられる。早ければ12月会合(12月18・19日)だとみられるが、1月会合(1月22・23日)の可能性もある(2月の会合予定はない)。

実は、隠れた要因には、衆議院の解散総選挙がある。もしも、2023年内に解散があれば、日銀は2024年に入ってフリーハンドでアナウンスを決められるだろう。しかし、2023年の解散がなく、2024年前半にその可能性がくすぶっていると、3・4月のマイナス金利解除は難しいのではないか。

#2023~2024年の展開

年内総選挙の場合、1ドル150円が円安のピークになり、日銀が2024年初から出口戦略に着手して、1ドル120~130円の円高水準で推移するだろう。筆者は、植田総裁がマイナス金利解除後は利上げを継続せず、0.1%程度をしばらく維持すると説明すると予想するので、いずれにしろ大幅な円高にならないと予想している。

逆に、解散総選挙が年内にない場合、2024年9月の岸田首相の自民党総裁任期までのどこかに解散が後ずれする。もしも、この解散のタイミングが日銀の出口戦略の縛りになれば、2024年1~3月は再び150円に向けてじわじわと円安になるだろう。レンジは130~150円である。日銀の出口戦略は、3・4月ではなく、6月以降からずっと後になる。日銀の出口戦略への着手が遅れるほどに円安傾向が定着する格好になると予想する。

基本的に、この2つのシナリオが想定される。そのほかの焦点は米経済である。米利上げが長期化すると、2024年中のどこかで景気がスローダウンし、長期金利は低下するだろう。これはドル安・円高圧力になる。こうした景気減速感が鮮明になれば、解散総選挙を意識して日銀が緩和を現状維持していたとしても、円安圧力は後退していく。いずれにしても、1ドル150円台前半は円安のピークになり、解散総選挙の思惑によって日銀の出口戦略も変わっていくというのが今後のストーリー展開になるだろう。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。