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BOEは僅差で金利を据え置き

~今回の利上げ局面はいったん終了へ~

田中 理

要旨
  • 賃金上昇率の加速などインフレ圧力が残存するが、景気指標やコア物価に金融引き締めの効果が浸透しつつあり、BOEは9月のMPCで5対4の僅差で政策金利の据え置きを決定した。4名の委員は0.25%の追加利上げを主張した。BOEは先行きの利上げ再開・継続の可能性を排除しなかったものの、今後、金融引き締めの効果が一段と浸透し、物価上昇率が鈍化に向かうことに鑑みれば、筆者は利上げ局面が終了したと考える。物価や賃金の高止まりが続いており、利下げ転換の議論が本格化するのは来年以降、実際の利下げは来年後半以降とみる。

英イングランド銀行(BOE)は21日に9月の金融政策委員会(MPC)の結果を公表し、5対4の僅差で政策金利(ベース金利)を5.25%に据え置くことを決定した。ベイリー総裁、ブロートベント副総裁、ディングラ外部委員、ピル委員(チーフエコノミスト)、ラムスデン副総裁の5名が据え置きを主張した一方、カンリフ副総裁(10月で退任、後任はBOEの金融安定戦略・リスク部門を統括するブリーデン氏が就任する)、グリーン外部委員、ハスケル外部委員、マン外部委員の4名が0.25%の追加利上げを主張した。

前回8月のMPC以降に発表された経済指標は、8月の購買担当者指数(PMI)で製造業の悪化モメンタムが加速、サービス業が好不況の分岐点である50割れに転落するなど、景気にブレーキが掛かっていることが確認されたほか、8月の消費者物価で金利に敏感な住宅・家財などを中心にコア物価の上昇率が鈍化、利上げ効果が浸透してきていることが確認された。同時にサービス物価の高止まり、賃金上昇率の加速、原油価格の再上昇など、インフレ圧力が残存しており、政策金利を据え置くか利上げを継続するか、MPCメンバーの間でも判断が割れた。

発表された声明文によれば、足許の経済指標の下振れには一時的な要因もあるが、年後半の景気が8月の金融政策レポート(旧物価レポート)の想定を下回る可能性があると指摘。労働市場も引き続きタイトながら、空室率の低下や失業率の上昇など、需給逼迫が緩む兆しも散見される。2021年12月に利上げを開始して以降、BOEは前回8月のMPCまでに14会合連続で合計515bpの利上げを実施してきた。現在の金融政策スタンスは抑制的で、これまでの引き締め効果が今後一段と顕在化することに鑑みると、引き締めを行わないことに伴うリスクと、引き締めを継続することに伴うリスクは釣り合っていると判断した。

据え置きを主張した5名は、①労働市場に緩和の兆しがあり、最近の賃金上昇率の加速は別の賃金指標と必ずしも平仄が取れていない、②単月の動きながら、インフレ率も予想以上に下振れ、③経済活動も減速しており、PMIはマイナス成長を示唆する水準にあると最近の経済活動を総括。政策金利の据え置きを主張する一方で、インフレ率が2%の目標に向かって持続的に復帰するのが見通せるまで、抑制的な金融政策スタンスを維持することが正当化されると主張。但し、1名の委員は、金融政策の効果が浸透するにはタイムラグがあるため、過度な金融引き締めで景気をオーバキルし、より急激な政策転換が必要となるリスクが高まりつつあると指摘した。

利上げを主張した4名は、経済活動に減速の兆しが広がっているものの、消費者心理は底堅く、家計の実質購買力はプラス圏に浮上、先行指標はプラス圏を維持、労働市場の逼迫が続き、需給緩和のペースが鈍く、直近のサービス物価の下振れは変動の大きい費目によるもので、賃金やサービス物価の動向は2%の中期的な物価目標を超過する可能性が示唆されると総括。金融引き締めの効果が顕在化する兆しもあるが、インフレ圧力に対処し、物価を2%の中期的な目標に復帰させるためには、今回のMPCで0.25%の追加利上げが正当化されると主張した。

声明文は、労働市場の逼迫度合い、賃金やサービス物価の動向など、持続的なインフレ圧力と経済活動の復元力(レジリエンス)を引き続き注意深く監視すると指摘。インフレ率を中期的且つ持続的に2%の目標に戻すためには、金融政策は十分に長い期間、十分に抑制的に保つ必要があると主張。より持続的なインフレ圧力を示唆する証拠があれば、更なる引き締めが必要になるとも主張。利上げの打ち止めや早期の利下げ転換の可能性を否定した。

このように、BOEは先行きの利上げ再開・継続の可能性を排除しなかったものの、今後、金融引き締めの効果が一段と浸透し、物価上昇率が鈍化に向かうことに鑑みれば、筆者は利上げ局面が終了したと考える。次の焦点は利下げ転換時期となるが、当面は物価や賃金が高止まりするため、MPC内の議論が本格化するのは来年以降、実際の利下げは来年後半以降とみる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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