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2023.09.04
日本経済
新型コロナ(経済)
経済効果
観光・旅行
岸田政権
過度な期待は禁物な中国の団体旅行解禁
~中国依存低下で来年政府目標インバウンド消費5兆円達成の可能性~
永濱 利廣
- 要旨
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- 2019年の訪日外客数およびインバウンド消費額に占める中国人観光客のウェイトはそれぞれ30.1%、36.8%を占めていたが、直近2023年4-6月期時点での訪日外客数、インバウンド消費額はそれぞれ19年4-6月期の69.0%、95.1%まで回復しているのに対し、中国人観光客に限ればそれぞれ19.1%、32.6%しか回復していない。
- 団体旅行解禁効果には慎重な見方をせざるを得ない。デフレリスクが高まる中で政府の対応が鈍い中国では経済不安が広がっているためである。福島第一原発の処理水の影響も無視できない。中国の水産物輸入全面停止に対して日本が断固として対抗措置を講じれば、中国政府が団体旅行の解禁先から日本を再度対象外にする可能性もある。国内観光産業の人手不足等も勘案すれば、中国団体旅行解禁に伴う過度な経済的期待は禁物。
- 今回の解禁に伴う中国人観光客のインバウンド消費は今年+0.1兆円程度の押上げによりトータル0.7兆円程度となり、来年はトータルで1.6兆円程度に拡大すると予想するが、2019年の約1.8兆円には及ばないと見込む。
- 中国人観光客のインバウンド消費が過去最高を更新するのは関西万博が開催される25年以降となっても、インバウンド消費全体では中国以外で早期に過去最高を更新することから、中国依存度が低下する形で来年には政府目標の5兆円を達成する可能性が高い。
回復が遅れる中国人観光客
中国政府は8月10日、日本を含む78カ国・地域への団体旅行を解禁した。これにより、2019年までは訪日外国人客1位だった中国人の訪日が増え、景気にプラスという見方がある。というのも、2019年の訪日外客数およびインバウンド消費額に占める中国人観光客のウェイトはそれぞれ30.1%、36.8%を占めていたが、直近2023年4-6月期時点での訪日外客数、インバウンド消費額はそれぞれ19年4-6月期の69.0%、95.1%まで回復しているのに対し、中国人観光客に限ればそれぞれ19.1%、32.6%しか回復していない。
このため官公庁では、特に中国で大型連休になる10月の国慶節に向けて中国人団体旅行客が本格化すると想定しており、単月の訪日客数は年内にコロナ前の水準に戻ることも視野に入れているとしている。
中国人観光客に限れば、来年もコロナ前に到達しない可能性
しかし、団体旅行解禁効果には慎重な見方をせざるを得ない側面もあろう。というのも、デフレリスクが高まる中で政府の対応が鈍い中国では経済不安が広がっているためである。昨年末のゼロコロナ解除で一時的に持ち直しの動きがあったものの、不動産市況の悪化や地政学的緊張の高まりによる悪影響が当初の予想以上に重しになっている。特にGDPの3割相当を占めるとされる不動産開発部門は低調が続いており、企業の債務問題が長期化する中で、不動産開発投資が足を引っ張っている。これを受けて中国人民銀行も金融緩和に着手しているが、地政学的緊張の高まりによる中国からの資本流出につながるリスクもジレンマとなっている。こうした中で、特に若年層の雇用所得環境が悪化しており、少子化も相まって中国の経済成長率は長期的にも伸びが抑制される可能性が高まっている。
また、福島第一原発の処理水の影響も無視できない。というのも、日本の海洋放出開始を受けて、中国政府は日本の水産物輸入を全面的に停止することを発表した。このため、元々訪日を予定していた一部の中国人団体客が行き先を日本から変更する可能性も否定できないだろう。
さらに、中国の水産物輸入全面停止に対して日本が断固として対抗措置を講じる必要性が出てくる可能性もあろう。しかしそうなると、昨年末に日本が中国からの直行便での入国者に対する水際対策の臨時的措置を実施したことで今年2月の団体旅行一部解禁で日本を対象外にしたように、中国政府が団体旅行の解禁先から日本を再度対象外にする可能性もあることには注意が必要である。
加えて、国内観光産業の人手不足等も勘案すれば、中国団体旅行解禁に伴う過度な経済的期待は禁物と言えよう。具体的には、今回の解禁に伴う中国人観光客のインバウンド消費は今年+0.1兆円程度の押上げによりトータル0.7兆円程度となり、来年はトータルで1.6兆円程度に拡大すると予想するが、2019年の約1.8兆円には及ばないと見込む。となると、中国人観光客のインバウンド消費が過去最高を更新するのは関西万博が開催される25年以降となろう。とはいえ、インバウンド消費全体では中国以外で早期に過去最高を更新することから、中国依存度が低下する形で来年には政府目標の5兆円を達成する可能性が高い。
※本稿は、8月31日付エコノミストオンラインへの寄稿
(https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230912/se1/00m/020/045000c)を基に作成。
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 永濱 利廣
ながはま としひろ
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経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
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