ジャクソンホール会議でパウエル議長は従来の見解を維持

~9月FOMCに向けて8月分の雇用統計とCPIが焦点~

前田 和馬

要旨
  • パウエル議長は25日のジャクソンホール会議における講演において、従来の景気・物価認識を維持し、先行きの政策スタンスを慎重に判断する姿勢を示した。
  • 同講演の内容を受けた市場の反応は限定的に留まっており、9月FOMCでは依然政策金利の据え置きが大勢見通しとなっている。一方8月分の雇用統計と消費者物価指数(CPI)が予想以上に強い着地となった場合、9月の利上げ観測が強まる可能性がある。

8月25日、パウエル議長はジャクソンホール会議(24-26日開催)において講演を行い、「インフレ率は依然高すぎる」「金融政策の効果には不確実性がある」「データに基づき政策決定を行う」など従来と同様の見解を繰り返した。

1.景気・インフレに対する認識

パウエル議長は「最近のインフレ鈍化は好ましいものの、2%物価目標達成には依然距離がある(a long way to go)」と言及したほか、「2か月分の好ましいデータは、確信を得るための始まりにすぎない」と述べ、引き続きインフレ鈍化の進展を注視する姿勢を示した。先行きの景気動向を巡っては、トレンドを下回る経済成長、及び労働需給の緩和を予想する一方、想定以上に景気が堅調さを保ち、労働市場の逼迫が継続するリスクを指摘した。

2.先行きの政策運営に対するガイダンス

パウエル議長は、累積的な利上げによる政策効果の大きさ、及びその波及ラグを巡る不確実性を指摘したほか、ポストコロナに特有の「需給の混乱」が金融政策の評価をより複雑にしていることを強調した。このため、金融政策が過度に引き締め的、或いは緩和的となるリスクを勘案し、今後の会合では「総合的なデータと、見通し及びリスクの進展」を基に慎重に政策決定を行う姿勢を示した。

3.米国経済の構造変化

パウエル議長は、会合前に一部で話題となっていた自然利子率の議論を巡って、現在の実質政策金利は一般的な中立金利の推計値を上回っており、足下の金融政策スタンスは引き締め的と述べた。一方中立金利の水準は明確でないため、金融引き締めの度合いには常に不確実性があることも指摘した。また「インフレ目標は現在もこれからも2%」と述べ、物価目標を引き上げる考えは否定した。

上記の内容にサプライズはなく、パウエル議長の講演を受けた金融市場の反応は限定的に留まった。Fed Watchによる9月FOMC(9/19-20開催)の利上げ確率は25日時点で20%(24日:19%)と、依然政策金利の据え置きが大勢見通しとなっている(年末までに+25bp以上の利上げを予想する向きは54%)。とはいえ、9月FOMCまでには8月雇用統計(公表日:9/1)、8月CPI(同9/13)が公表されるため、仮にこれらの指標が予想を上振れる結果となった場合、9月FOMCにおける利上げ観測が強まる可能性がある。

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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