都区部版・日銀基調的インフレ率の試算(2023/8)

~7月からさらに伸び率拡大~

星野 卓也

要旨
  • 本日公表された8月都区部CPIを用いて、日銀が全国CPIをもとに公表している刈込平均値・加重中央値・最頻値を試算した。8月値は7月値をさらに上回る伸びに。日銀の公表する全国CPI版の試算値は7月に過去最高を更新したが、そこから更なる上振れが見込まれる。
目次

基調的インフレ率はさらに加速

以前のレポート で試算した東京都区部版の基調的インフレ率3指標について、本日公表の8月都区部CPIを用いて計算した。刈込平均値(全国ウェイト換算)は7月:+3.2%→8月:+3.3%、加重中央値(全国ウェイト換算)は7月:+1.3%→8月:+1.4%、最頻値は7月:3.6%→8月:+3.8%となった(いずれも前年比)。3指標の伸び率はいずれも加速。物価上昇圧力は未だ根強いままだ。

22日に日銀が公表した7月全国CPIを用いた3指標の前年比伸び率はいずれも過去最高値を更新した。今回の試算値の結果はそこから更なる伸び率拡大を示唆するものだ。細かい話だが、7月日銀試算値は刈込平均値が+3.3%、加重中央値が+1.6%、最頻値が+3.0%である。加重中央値がさらに上振れすると3指標すべての2%到達が視野に入ってくる。日銀はあくまでこれらの数値を「基調的インフレ率を捕捉するための指標」として公表しており、“基調的インフレ率そのもの”と見做しているわけではない。ただ、これらの内容を受けて「基調的インフレ率が2%に達していない」、との日銀説明には変化が生じてくる可能性がある。

筆者は、輸入物価影響の剥落や値上げ疲れによる家計消費の鈍化で本稿試算の基調的なインフレ率も低下に向かうとみているが、足元の数値からはまだその片鱗はみえてこない。目下の円安もインフレ率低下を遅らせる要因だ。YCCのレンジに余裕を持たせたことで、日銀の次の政策修正はファンダメンタルズを重視した判断になると考えられる。分布に着目したこれらの指標の動向はより重要になる。

資料1.試算した都区部版・基調インフレ率と日銀の全国CPI基調インフレ率(前年比・%)
資料1.試算した都区部版・基調インフレ率と日銀の全国CPI基調インフレ率(前年比・%)

資料2.試算した都区部版・基調インフレ率と日銀の全国CPI基調インフレ率(前年比・%)
資料2.試算した都区部版・基調インフレ率と日銀の全国CPI基調インフレ率(前年比・%)

以上

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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