中国不動産市場の低迷による世界経済への影響

~中国不動産市場の10%の需要減少が世界生産を-0.66%押下げ~

前田 和馬

要旨
  • OECDの国際産業連関表を用いると、中国における不動産関連産業の最終需要が10%減少する場合、生産額は世界で-0.66%、中国で-2.89%、日本で-0.06%それぞれ押し下げられる。なお同試算結果は、中国不動産市場の不振が中国消費の低迷、或いは世界的な株安等へ波及する場合、増幅する可能性がある。
  • 中国における不動産関連産業は世界の20.2%を占めるなど、こうした不振がコモディティ価格に波及する可能性に留意が必要だ。コモディティ価格の下落が世界的なディスインフレ圧力となり、CPIが2%を下回る推移となる場合、世界的な利下げ局面への転換点に繋がる可能性がある。

8月17日、中国不動産大手の恒大集団がニューヨークにて米連邦破産法15条を申請した。同15条は外国企業が保有する米国内資産の差し押さえの回避を可能とするため、恒大集団が国際的な債務再編の進展を図って申請したものとみられている。一方中国の不動産業界を巡っては、不動産大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)のデフォルト懸念も強まるなど、不透明感が非常に強い。足下の不動産投資は7月が前年累計比で-8.5%と減少するなど、低迷が持続している(図表1)。

本稿では、OECD作成の国際産業連関表(ICIO:Inter-Country Input-Output Tables)を用いて、中国不動産業の低迷による世界経済への影響を分析した。ICIOは76か国における45産業の相互取引を記録したものであり、直近では1995-2020年までのデータが取得可能である。本稿では新型コロナウィルス感染拡大以前のデータとして、2019年時点のICIOを分析に使用した1

まず、中国における不動産業の生産額(市場規模)は1.0兆ドル(150.2兆円)と、中国内の生産額に占める割合は2.9%に達する。また建設業を含めた不動産関連産業で見ると、生産額は4.7兆ドル(677.1兆円)、同比率は13.1%へとそれぞれ拡大する2。また不動産関連産業の生産額を国際比較でみると、中国は世界の20.2%を占めるなど、米国の23.4%に次ぐ世界第2位の市場規模を有している(図表2)。

2019年のICIO を前提として試算すると、中国における不動産関連産業の最終需要が10%減少した場合、世界の生産額は-0.66%減少する(図表3)。国別に生産額への影響をみると、中国が-2.89%と最大の減少幅となる一方、日本は-0.06%、ドイツは-0.05%、米国は-0.02%と他国への影響は限定的に留まる。一方不動産市場の不振を契機とした中国の景気減速を背景に、中国における全産業の最終需要が1%減少した場合、世界の生産額は-0.19%の減少となり、内訳をみると中国で-0.83%、日本で-0.03%、米国で-0.01%それぞれ減少する。

なお国際産業連関表を用いた本試算は、一定時点の投入構造が不変と仮定していることに留意が必要である。中国の不動産市場の不振が銀行の貸出態度悪化などに波及し広範な経済活動を抑制する場合、中国経済への影響は増幅する3。加えて、こうした中国経済の景気減速懸念が国際的な株安などを招く場合、世界的な景気への悪影響も増幅するかたちとなる。

他方各国のインフレへの影響を考えた場合、中国不動産関連産業の動向が、銅を中心としたコモディティ価格へ与える影響に注視が必要であろう。足下で世界的な財インフレは落ち着きしつつある一方、コモディティ価格の下落が主要国のCPIに対する強力なディスインフレ圧力となる場合、2024年以降のCPIが2%を明確に下回ってくる要因となる可能性がある。この場合、昨年初から続いた世界的な金融政策の引締め局面から利下げ局面への転換点に繋がることとなろう。

図表1,2
図表1,2

図表3,4
図表3,4

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

出所: CEIC、Refinitivより第一生命経済研究所が作成

以上

1 ICIOにおける取引は米ドル建て表示で統一されており、本稿の円換算額は1ドル=145円で計算している(8/18時点の実勢レート:1ドル=145.3円)。

2 Rogoff and Yang (2020) “Peak China Housing” NBER Working Paper No. 27697では、家電なども含めた不動産業の付加価値はGDP比で28.7%に達するとの試算結果を示している。

3 中国経済の動向に関しては「中国景気は一段と減速するなか、人民銀は金融緩和へ「前裁き」」を参照。

前田 和馬


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