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BOEは平常運転に復帰

~利上げ幅を25bpに縮小し、利上げを継続へ~

田中 理

要旨
  • 英国では経済活動に鈍化の兆しも広がっているが、インフレ圧力が残存するリスクが高まっており、BOEは8月のMPCで25bpの追加利上げを決定した。政策金利パスを上方修正したにもかかわらず、金融政策レポートの物価見通しは、前回対比で高止まりを予想する。2%の物価目標を下回るタイミングは前回同様に2025年4~6月期を見込むが、企業の価格転嫁や賃上げの余韻がより長く残存すると判断している。BOEは今後も物価に上振れのリスクがあるとしており、筆者も9月と11月のMPCで25bpの追加利上げを予想する。

英イングランド銀行(BOE)は3日に8月の金融政策委員会(MPC)の結果を公表し、ベース金利(政策金利)を2008年前半以来となる5.25%に引き上げた。2021年12月の利上げ開始以降、利上げは14会合連続で、通算の利上げ幅は515bpに達する。前回6月のMPCでは利上げ幅をそれ以前の2回の25bpから50bpに再拡大したが、今回は再び25bpに戻した。ベイリー総裁を含む6名の政策委員が25bpの利上げを主張し、マン委員とハスケル委員の2名が50bpの利上げを、ディングラ委員が金利の据え置きを主張した。今回のMPCから新たに加わったグリーン委員は、主流派意見と同じ25bpの利上げを主張した。

BOEはこれまでの大幅利上げにより金融政策スタンスは抑制的となっており、経済活動の鈍化を示す兆しも広がっているが、賃金上昇率が上振れするなど、インフレ圧力が残存するリスクが高まったことを、追加利上げが必要になった理由として説明している。前回6月のMPCでは、①外生的なショックによる物価や賃金の二次的効果(波及)の剥落に時間が掛かっていること、②労働需給の逼迫や底堅い需要に伴うインフレ圧力が高まっていること、③先行きの賃金や物価の上昇率鈍化を示唆する経済指標の先行性が現在の高インフレ期にも当てはまるかが不透明であることを、利上げ幅を50bpに再拡大した背景として説明していた。今回のMPCでも2名の政策委員は、労働需給の逼迫が続いており、賃金上昇率の上振れを考えると、将来のより大幅な利上げが必要になるリスクを軽減するためにも、50bpの追加利上げが必要であると主張した。反対に1名の政策委員は、金融引き締めの効果浸透には時間が掛かり、既に政策スタンスは抑制的で、過度な引き締めリスクがあるとして、金利の据え置きを主張した。今後の政策スタンスについては、労働市場の逼迫度合い、賃金上昇率、サービス物価の動向など、持続的なインフレ圧力と経済の回復力(レジリエンス)を引き続き注意深く観察するとしており、より持続的なインフレ圧力が確認されれば、更なる金融引き締めが必要になるとの方針を示唆している。

同時に発表された金融政策レポート(旧物価レポート)によれば、実質GDP成長率の中央値予想は2023年が前回:+0.25%→今回:+0.5%に上方修正、2024年が+0.75%→+0.5%、2025年が+0.75%→+0.25%に下方修正された(図表1)。市場の政策金利予想(2024年4~6月期の6.12%でピークを打ち、その後は2024年10~12月期に5.89%、2025年10~12月期に4.95%、2026年10~12月期に4.33%に低下を見込む)が実現した場合、前回5月時点で大幅に上方修正された経済見通しは、利上げパスの前提が大きく引き上げられたこともあり(2023年が前回:4.8%→今回:5.8%、2024年が4.0%→5.9%、2025年が3.7%→5.0%)、2024年後半以降を中心に今回再び下方修正された(図表2・3)。

(図表1)英BOE金融政策レポートの経済物価見通し
(図表1)英BOE金融政策レポートの経済物価見通し

(図表2)英BOEの金融政策レポートの政策金利の想定
(図表2)英BOEの金融政策レポートの政策金利の想定

(図表3)英BOEの実質GDP成長率の中央値予想(前年比)
(図表3)英BOEの実質GDP成長率の中央値予想(前年比)

消費者物価の中央値予想は、2023年が前回:+5%→今回:+5%で不変、2024年が+2.25%→+2.5%、2025年が+1%→+1.5%と上方修正された(前掲図表1)。市場の政策金利予想を前提としたインフレ率の見通しは、今後も上昇率の鈍化が進み、2023年10~12月期で前年比+4.93%、2024年10~12月期で同+2.76%、2025年10~12月期で同+1.83%を見込む(図表4)。2%の物価目標を下回るのは、前回見通しと同様に2025年4~6月期だが、2%を下回った後の推移は前回と比べて概ね0.2%ポイントほど高い。政策金利パスの上方修正にもかかわらず、企業の価格転嫁や賃上げの余韻が残存すると見込んでいる。

(図表4)英BOEの消費者物価の中央値予想(前年比)
(図表4)英BOEの消費者物価の中央値予想(前年比)

景気減速の兆しは広がっているが、当初想定よりも底堅い。物価はピークアウトしたとは言え、高止まりし、インフレ圧力も残存している。こうしたなか、BOEは今後もしばらく利上げを継続する可能性が高い。筆者は9月と11月に25bpの追加利上げを決定し、政策金利の最終到達点(ターミナルレート)を5.75%と予想する。

なお、カンリフ副総裁(金融安定担当)が10月末で退任し、11月から後任の副総裁にブリーデン氏が就任し、MPCのメンバーに加わる。同氏は現在、BOEの金融安定戦略・リスク部門を統括し、金融安定政策委員会(FPC)のメンバー。早くから将来の幹部候補と目されてきたBOEの生え抜きで、銀行監督、金融安定、プルーデンス政策、気候変動対策などを担当してきた。金融政策に対する過去の発言録はないが、金融安定を重視する立場からはタカ派寄りの立場を採る可能性がある。退任するカンリフ副総裁は2013年11月の就任以来、多数派意見と異なる投票を行ったのは2017年11月と2022年3月の2回だけで、何れも多数派が25bpの利上げを主張したのに対し、金利の据え置きを主張した。また、今回のMPCから最ハト派のテンレイヨ委員が民間エコノミスト出身のグリーン氏に交代した。2つの人事交代でMPCメンバーの構成はややタカ派に傾くことが想定される。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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