オーストラリア:金融政策(23年8月)

~市場予想が割れるなか据え置きの継続を決定、今後はインフレ率の上振れリスクを見極める姿勢~

阿原 健一郎

要旨
  • 8月1日、RBAは政策金利の据え置き(4.10%)を決定。市場予想は、利上げと据え置きで割れていた。据え置きは2会合連続。
  • 据え置きの背景は、今回の決定によりこれまでの金利上昇の影響と経済見通しを評価するためのさらなる時間が得られる、と金融引き締めの効果を見極めるとした。先行きは、RBAの想定する経済見通しから大きく乖離しない限り、据え置きを継続するとみられる。
  • 据え置きを受けて、豪ドルは対米ドル、対日本円いずれも一時減価した。

8月1日、オーストラリア準備銀行(RBA)は政策金利(オフィシャルキャッシュレート)の据え置き(4.10%)を決定した。据え置きは2会合連続。市場予想は、利上げと据え置きで割れていた(+25bps:20/36人、据え置き:16/36人、ロイター調査)。7月26日公表の2Q(4~6月)消費者物価が、総合CPIで前年比+6.0%と市場予想(同+6.2%)を下回ったものの、サービス価格を中心にインフレ上昇圧力が残っており、再度利上げに動くのかRBAの政策判断に注目が集まっていた(図表1)。消費者物価のレポートで触れた通り、足もとのインフレ率がRBAの想定通りのパスに帰着しており、データではインフレ率の上振れリスクが顕在化しているとはまだ言い難いため、政策効果の見極めを継続したという形だろう1

据え置きの背景について、RBAは声明文で、「政策金利の上昇により、経済における需要と供給の持続的なバランスが確立されている」、「今回の決定により、これまでの金利上昇の影響と経済見通しを評価するためのさらなる時間が得られる」としている。インフレ率の評価については、前年比+6.0%は依然として高いとしつつも、「直近のデータは、インフレ率が予測期間中に2~3%の目標レンジに戻り、生産と雇用が成長を続けることと整合的なものである」と、RBAの想定通りのパスに帰着していることに言及している。もっとも、サービス価格の高止まりや、金融政策の波及効果のラグ、労働市場が逼迫しているもとで企業の価格設定や賃金がどう景気減速に反応するか、不確実性は高いとしている。

先行きについては、前回7月会合から大きな変化はないが「適切な期間内にインフレ率が目標に戻ることを確実にするためには、金融政策の更なる引き締めが必要になるかもしれないが、それはデータとリスク評価がどう推移するかに依る」と、足もとの実績よりもインフレ率の上振れリスクに重きを置く表現に修正された。RBAの想定している経済見通しから大きく乖離する兆しが見えない限りは、据え置きを継続する可能性が高いと予想される。

なお、今回の据え置き決定を受けて、豪ドルは一時、米ドルに対して約▲0.4%、日本円に対して約▲0.3%減価した(図表2、3)。追加利上げの可能性後退が意識され、豪ドルが売られたとみられる。

図表1 政策金利とインフレ率
図表1 政策金利とインフレ率

図表2 為替レート(対米ドル、8/1日)
図表2 為替レート(対米ドル、8/1日)

図表3 為替レート(対日本円、8/1日)
図表3 為替レート(対日本円、8/1日)

図表2、3
図表2、3


阿原 健一郎


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阿原 健一郎

あはら けんいちろう

経済調査部 主任エコノミスト
担当: アジアパシフィック経済、世界経済

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