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ECBも夏休みモードで様子見へ

~今後はデータ次第、そのデータは強くない~

田中 理

要旨
  • ECBは7月の理事会で、前回の予告通りに25bpの追加利上げを決定した。9月以降の追加利上げの是非は、今後のデータ次第で判断するとし、利上げ休止も視野に政策姿勢を修正してきた。既に利上げ効果は金融環境の引き締まりを通じて実体経済に現れており、4~6月期のマイナス成長と年後半の景気低迷が予想される。追加利上げは、物価や賃金指標が上振れした場合に限られよう。その判断は難しいが、サービス物価の粘着性を考えると、9月に25bpの追加利上げを行った後、様子見に転じると予想する。

前回理事会で次回の追加利上げを事実上予告したECBは27日、全会一致で25bpの追加利上げを決定した。声明文では「インフレ率は引き続き鈍化しているが、高止まりの長期化(too high for too long)が予想され」、今回の25bpの追加利上げが必要になったと説明した。利上げは9会合連続で、これまでの利上げ幅は425bpに達する。昨年7月の利上げ開始時にマイナス圏にあった下限の政策金利(預金ファシリティ金利)は3.75%に引き上げられ、2000年代初頭に記録した過去最高に並んだ。

前回理事会後の記者会見でラガルド総裁は、「利上げの旅路はまだ終わっていない」、「ベースラインのシナリオに重大な変化がない限り、7月も引き続き政策金利を引き上げる可能性が極めて高い」と指摘し、7月の追加利上げを事実上明言したが、今回は追加利上げも様子見もデータ次第というスタンスに変更した。

前回理事会後に明らかとなった経済・物価環境からは、①インフレ率が年末に向けて一段と鈍化するとみられるが、2%の物価目標を上回り続けること、②インフレ圧力が緩和する兆しも一部にあるが、基調的なインフレ率が高止まりすること、③これまでの利上げの効果が金融環境の引き締まりと需要の抑制という形で伝達しつつあること—―が確認されると指摘した。

そのうえで、政策金利に関する今後の政策指針は次の通りに変更された。

(前回)インフレ率を遅滞なく2%の中期的な目標に戻すため、政策金利を十分に抑制的な水準に引き上げ、必要な限り、その水準を維持する(the key ECB interest rates will be brought to levels sufficiently restrictive to achieve a timely return of inflation to the 2% medium-term target and will be kept at those levels for as long as necessary)

(今回)インフレ率を遅滞なく2%の中期的な目標に戻すうえで必要な限り、政策金利を十分に抑制的な水準に設定する(the key ECB interest rates will be set at sufficiently restrictive levels for as long as necessary to achieve a timely returna of inflation to our 2% medium-term target)

全体の内容は前回の文言を踏襲したが、前回:「政策金利を十分に抑制的な水準に引き上げ、必要な限り、その水準を維持する」→今回:「政策金利を十分に抑制的な水準に設定する」に動詞を変更し、利上げ小休止の可能性も含めた表現に修正している。

ラガルド総裁は、今後の政策決定が「データ次第である(data dependent)」であることを強調し、「9月とその後の理事会での決定については柔軟である」、「利上げをするかもしれないし、金利を据え置くかもしれない、9月に何を決定するかは決まっていない」と述べ、過去数回のように次回の追加利上げを予告しなかった。今後の政策判断に当たっては、9月理事会でのスタッフ見通しの内容、それまでに公表される2ヶ月分の経済指標、金融政策の波及状況を確認し、利上げか様子見かを判断すると述べるとともに、早期利下げの可能性については明確に否定した。データ次第の内容については、前回同様に、①今後新たに入手する経済・金融関連のデータ、②基調的なインフレ率の推移、③金融政策の伝達の強さに基づいて、金融引き締めの適切な程度と期間を判断すると説明した。

ECBは今回の理事会で、利上げの継続から、利上げの休止も視野に入れる形に政策姿勢を修正してきた。今後の利上げはデータ次第となるが、既に金融環境の引き締まりが実体経済に波及しつつある。月次指標の動向から判断する限り、4~6月期はマイナス成長となった模様で、7~9月期入り後も景況感が一段と悪化しており、年後半の景気も低空飛行が続きそうだ。追加利上げの有無は、コア物価、サービス物価、賃金指標などが上振れした場合に限られよう。現段階でその判断は難しいが、サービス物価の粘着性を考えると、9月に25bpの追加利上げを行った後、様子見に転じる展開を想定する。その後は、インフレ圧力が残存するなか、ECBは将来的な利上げ再開の可能性を残しつつ、早期利下げに否定的な姿勢を示唆することが予想される。

なお、今回の理事会では、最低所要準備に適用される金利を、これまでの預金ファシリティ金利から0%に変更された。また、資産買い入れプログラム(APP)の再投資は、7月に完全に停止されたが、保有資産の売却(量的引き締めの開始)方針は示されなかった。コロナ危機対応のパンデミック緊急資産買い入れプログラム(PEPP)については、少なくとも2024年末までは再投資を継続するとの従来の方針が維持された。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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